Trieste(学会)

暑さをしのぐための文明の利器といえば扇風機しかないゲストハウスですが、夜はすごく涼しかったです。夕方、部屋に着いた瞬間は落ち込みましたが、日が暮れるにつれ風がでて、だんだん涼しくなり、しまいには窓を閉めていてもシーツにくるまって眠れるくらいに、気温は下がりました。やれやれ。
夫は翌日、自分の発表があるので寝るどころでなく、パニック気味。パソコンいじったり、なんだかんだ準備に追われてましたが、私は疲れていたのでお先にひとりでスヤスヤ。

明け方、なにやら音がするので目を覚ますと、外はちょっとした嵐です。風が窓をガタガタたたき、海を見れば波も高く、停泊しているヨットのマストが激しく揺れています。これまで、旅行中はずっと晴天続きだったのですが、この日は初めての悪天候。それからまた寝たんですが、七時頃に起きても相変わらずのお天気。雨はやみ始めたようですが、分厚い雲にさえぎられて日もささず、薄暗くて、ちょっと寒いくらいの涼しさです。カーディガンはおっていて、ちょうどいい感じ。昨日とはえらい違いです。

さて、この日から五日間の学会が始まったのですが、学会といっても見当のつかない一般の方のために少し説明しますと、今回は研究分野の焦点の合った、こぢんまりした学会(総勢8〜90人?)ということなので、ひとつの会議場を使い、学会主催側から招かれた発表者が、あらかじめ決められたプログラムの順番に従って、30分とか一時間とかで自分の研究発表をするんですね。
大学の講義みたいな感じですが、進行役の司会がいます。発表者を皆に紹介したり、発表のあと質問が多ければ、適当に人を選んだり、逆に誰も質問しなければ司会自らが質問してみたり。これも研究者が交代でやるんですが、けっこう気を使う仕事です。
プログラムにはポスターの時間というのもあって、ポスター参加の研究者は、それぞれの研究の内容を紙に印刷して専用の壁に貼りつけ、興味を持って見に来た人たちに説明したり意見を交わす、というものです。
今回は、ちらほら女の人の姿が目立っていたのが印象的でした。といっても、やはり少数なのですが。
服装などは自由ですね。もー、本当に自由。インドの女の人なんかサリーを着ていて、きれいでしたよ。男の人も、ごくカジュアルな格好。そのまま海岸へ散歩に行けるような。
学部によっては、学会ではスーツにネクタイで参加、みたいなところもあるようですが、うちの夫の属する物性理論の分野では、あまりきちんとした格好をしている人はいないようです。
っていうか、そもそもトリエステなんかでやってるんだし。ヨーロッパの人たちは、夏のバカンスシーズンで内心リゾートモードですし。以前に行った湘南のセンターでは、わりとスーツ着てる人もいましたけどね。
私、前は、なんでこんなカジュアルな格好で学会やってるんだろうと驚いてましたよ。でもね、そのほうが都合がいいって気づいたんです。私が退屈しのぎに紛れ込んでいても、あまり目立たないでしょ?いや、そういえば「奥さんも研究者なのか?」って訊かれたと言ってましたね、夫が。アハッ♪私が物理のケンキュウシャぁ?んなわけ、ないでしょーが。って、他の人にはわかりませんもんね。まーそんな感じですよ。

夫の発表を見るのは、やっぱり一番面白いです。
ほら、小学校の運動会なんかで、お母さん方が我が子の走る姿を一生懸命に追っているでしょ、あれと似たような感覚だと思うけれど、やはり夫は子供とは違って大人なので、こっちももっと醒めたというか、突き放した視線で見てますよ。
「フフ、まあ頑張ってやりぃな」みたいな(~_~;)
で、見てたら、もー必死なんですよね。もっと軽やかにパフォーマンスできないものかと思いますが、顔つきなんか強張っちゃって、いやぁ、必死さが伝わってきますよ。英語、下手だし。でも、強引っていうか、「受け」の必死じゃなくて、「攻め」の必死かな?
全体の感じでは、よくやってるなーと思いました。湘南のときより、ずっとよかったかも。
内容はぜんぜんわかんないけど。一応、聴いていた人の関心は引けたようだし。周りを見渡しても、一時間のあいだ、誰もあくびなんかしてなかったようだから。まー、それだけでもいいじゃないですか。

いや、やっぱオシゴトであって、マジな場面なんですよね。学会発表って。いろんな人に、自分の研究の成果・有用性などをアピールする機会なんですよ。
うちの夫だけじゃなくて、みんな、それぞれに必死なんだと思いますよ。たまには、発表なんか、もう慣れきってて、自信満々、余裕しゃくしゃくの方もいらっしゃるでしょうが、どうかなぁ、すごい少ないと思いますよ、そういう人は。もとからの性格にもよりますが、とくに日本人は非イングリッシュ・ネイティヴだから、そのぶん不利だし。うん、でも私はあの緊張感がいいと思いますね。見ていて非常に興味深いです。
理論系研究者の日常って、家族にとっては、パソコンのモニタで数字やグラフばっかり眺めてキーボードをカタカタ打ってる、地味〜〜な後ろ姿なんですよ。それが学会では一転、聴衆のまえに立つパフォーマーに変わる・・・へえ〜って感じですよ。実におもしろい。ほら、黙ってパソコンに向かってる姿はみんな似たようなものだろうけど、パフォーマンスするとなると、それぞれに人間性っていうか、性格の違いがでますから。
よく、子供に親の働いている姿を見せろ、とかいいますが、夫の仕事ぶりを妻が見るのも悪くないと思いますよ。うん。ほー、頑張ってるなー、とか思うかもしれないし。ふーん、あのだらしない夫がねぇ・・と見直すとか?あ、「きゃー、他の人のほうがカッコイイやん!!」ってことになる可能性もあるんですけど・・・ははは(~_~;)

ゲストハウスはトリエステの街からは少し離れた海沿いにあるので、観光するところといっても何もありません。ほんとにひなびた場所ですよ。私も、ちょっとあたりを散策してみた以外は、ずーっとゲストハウスにいました。
朝・昼・夜と、食事も同じカフェテリアで。やっぱり飽きますね、イタリアンは。味の個性がハッキリしているので。もー、毎日、昼も夜もリゾットだのスパゲティだのピザだの、いい加減にしてくれぇぇって感じ。帰国してから一ヶ月余り、スパゲティ食べる気になれませんでした。アメリカのローレンス研のカフェテリアのほうがずっと良かったかな。夫はあれでもやっぱり飽きたと言ってましたけど、私が見る限り、味のヴァラエティはずっとあったと思いますよ。
カフェテリアからすぐ外には広いテラスが広がっていて、海が見えます。食事時になると、テラスの片側にある藪の中から、必ず数匹の野良猫が現れて、足元をウロチョロしてました。なかに、まだ四ヶ月くらいの子猫の兄弟がいて、可哀想だからお皿のうえの残り物をあげたりしてましたが、きっと長生きできないんだろうなぁと思います・・・
せっかく海外に出てるんだから、もっと日本人以外の人たちとコミュニケーションをとったほうがいいのかどうか私にはわかりませんが、夫と一緒に、たいていいつも日本人同士数人で食事してましたね。いや、私には有り難かったですけど。やっぱ、英語だと疲れるし。ただでさえ身体的なエネルギーが不足してるとき、めんどくさい文法なんか考えたくもないですもん。もー、できるだけ英語喋りたくなーいって感じでした。どうせ、もとから部外者の私に用事がある人なんかいないわけだし。

学会中、心配していたほど暑くなく、寒すぎることもなく、ゲストハウスでまあまあ快適に過ごしていたわけですが、ひとつ難があったのは、バスルームのタオルをぜんぜん替えてくれなかったこと。お昼頃、清掃係の女の人が回ってきて、掃除はきちんとしてくれます。が、ベッドシーツやタオルは替えてくれません。私はあまり寝汗なんてかかないので、シーツ交換は省いていいとしても、シャワー浴びたあと使ったバスタオルを、乾かして何度も使うなんて、ちょっと今までしたことがないので、これは生理的に抵抗感じましたね。だって、全身洗ってスッキリしたら、洗濯したての清潔なタオルを使いたいじゃないですか。一度使ってビショビショになったものを、乾かして何度も使うなんて・・・ねぇ?
うん、普段からそういうふうにしている人がいるっていうのは知ってます。が、好みとか習慣の問題ですかね。ほら、ハンカチと靴下を一緒に洗濯機で洗いたくない、というような。とにかく、これがけっこうイヤでした。でも、人に訊いてみたら、ゲストハウスってそういうものだそうです。んー、ホテルではないということですね。ああ、そう言えば、私が中国に留学していたときも、大学の構内にあるゲストハウスにいたんですが、掃除もシーツ交換もタオル交換も、一週間に一回でしたね。そのときのタオル問題を思い出すと、二枚あったんですよ。私一人に、バスタオル二枚。だから、そんなに気にならなかったんだと思います。っていうか、あのときは、ゴキブリとか停電とか、もっと気になることがいっぱいありましたからね(~_~;)

まあしかし、ほんと、今回の学会はリラックス・モードでのんびりしてました。
私的には日本人が少ないほうがいいですね、なんとなく。ほら、日本人のエライ人とかがいたら、自然とそこに縦構造ができて、下っ端の夫の妻としては気を使うじゃないですか(~_~;) 
いや、外国人でも基本的には同じだと思いますが、習慣とか言葉や雰囲気が違うので、さほどそれが目立たないというか、気にならないってところがあるでしょ。妻は出しゃばらず控えめに夫を気遣って、陰でもり立てるべき、みたいなのがあまりないし、欧米の人たちはね。それより個人を見ているというか。私が知る限りの話ですが。私は確かに夫にくっついて行ってるわけですが、学会に関係してるわけじゃなし、その意味じゃ、まったくの部外者。そこでの私の行動なんて、見知らぬ外国の人は誰もいちいち気にかけてない。かえって、欧米の人たちはレディファースト精神がまだ残ってますから、何かあったら親切にしてもらえたりして(なかにはそうでない人もいるけれど)。
これが日本人ばかりの団体になると、お互いに一度は見たことがあるとか、何らかのかたちで知った人ばかりなので、日本人的に気の使いすぎ、気の回しすぎで、ムードが暗いっていうかお固いですねぇ〜(~_~;) 私にしても、もっと内輪な感じで、「あの奥さんはどうのこうの」とか思われそう。いやーん。勘弁してほし〜〜
どうせ、私がウザイと思われようがブサイクだと思われようが、普通に美人と思われようが貞淑な日本女性の鑑と思われようが(ありそうにないこと)、夫の業績にはひとつも関係ないし、私自身にもたいして意味のないこと。素直にそう開き直れる海外の環境は、だからのびのび気楽〜・・・って。えっ、これがほんとの「 旅の恥はかき捨て」ってやつ?あはあは(~_~;)