Trieste(via Venezia)

あまりいいことがなかったナポリから、いよいよ学会開催地トリエステへの移動日。
空港から国内線に乗り一時間半ほどでベネツィアまで、そこでお昼をすませたあとは、電車で二時間かけてトリエステへ到着の予定。この日もやはりよく晴れていて、暑いです・・・

荷物を用意してフロントに下りると、チェックアウトをすませてタクシーを呼んでもらいました。
すぐにやって来たのは、まだ若い、二十代前半くらいの男の子が運転手をつとめる車。
私たちが乗り込むと、料金表を見せてくれ、ここからナポリ空港までの値段を説明してくれたあと、車のなかで領収書をきってくれました。
驚き!!こんな親切タクシー、乗ったことがないぞ!!
で、その表を見たら、やっぱりこれまで乗ったタクシーの運転手は、皆、なにがしか料金を上乗せしていた、つまり、私たちがぼられていたってことがわかりました。

イタリアでは、けっこうせこくぼられます。たとえば、メーターが九百円だとして、千円請求する、とか。買い物のお釣りなんかでも、その場で確かめないと、平気で間違ってたりして。微妙な額でぼられるので、英語も通じないし、もういいか、という気にさせられる。あるいは、なんだかんだ理屈をつけられると、そうなのかな、これでいいのかな、という気になってくる。なんとなく諦めのつく上乗せというか。請求されたのが異常に高ければ抗議する気にもなるけれど、これくらいなら、まーしょうがないか、って感じの額を狙ってくるんですね。なんか、そのせこさがいじましいです。
正直兄ちゃんのタクシーは、運転はすごく乱暴だけど、すごくスピーディに私たちをナポリ空港前まで連れていってくれました。いや、スピード出過ぎてて、私なんか心臓ドキドキしたくらい。でも、それはそれとして、彼の誠実な勤務態度に、いたく感銘を受けた私たちは、気前よくチップをはずんでしまいました。

さて、飛行機に乗り込み、わりと快適な短いフライトのあと、降り立ったベネツィアは水の都。
さすが大きな観光都市なので、何もかもがキレイです。豊かな感じがしますね。
バスで空港から市内まで行き、鉄道に乗り換え。
そのまえに、もうお昼なので食事をして、少し休憩です。時間的に、ベネツィアを観光することはできませんが、夫も私も、それぞれ、以前に見て回ったことがあるので、まあ、サンマルコ広場とか、寺院とかの観光は、パスしてもいいやと思ってました。私としては、確かに綺麗な街だけれど、何度も来たくなるところではないですし。なんていうか・・・あまりに観光地観光地していて。

ベネツィア観光の目玉、サンマルコ寺院の前には大きな広場があり、そのサンマルコ広場を囲むようにぐるっと商店街になっています。観光客相手のカフェとかお土産屋さんですね。広場のなかは、いつも人と鳩とでいっぱいです。
98年に来たとき、私はその商店街の一軒で、可愛いベネチアンガラスをあしらったバングルタイプの腕時計を買いました。うん、あまりにデザインが可愛いので、家族に見せたら「おもちゃ時計」とか笑われましたが。(でも、気に入ってますし、今もちゃんと使ってますよ)確か、日本円にして6,7千円だったと思います。でも、実はそれ、同じものが、ツアーで連れていかれたガラス工場見学つきのお土産ショップでは、一万二千円ぐらいしたんですよね。どこがどうといって、違うものでもなかったと思います。私、欲しいなぁ〜、いいなぁ〜と思って、じーっと見ていたんですから。そのとき、よほど買おうかと思いましたが、これでこの値段はちょっとなぁ〜と、見送ったんです。いささか残念に思いながら。
で、そのあとフリータイムが二時間ほどあったんですが、ぶらぶら商店街を見ていたら、どこにでも同じような時計があるじゃないですか。しかも、ずっとずっと安い値段で。
ええっ!やっぱり何もあの店で買うことなかったんじゃない、ああー、あそこで雰囲気に呑まれて買わなくてよかった、と小躍りしましたよ。ツアーは便利だけど、お土産ものを買うときは、旅行会社と提携してる大きなショップで買わないほうがいいかもしれません。まあ、そう言っても、時間が限られていたら、仕方ないのですけどね。

今回の旅、ベネツィアでの観光はせずに素通りですが、私たちはここで初めてイタリアに降り立って以来のまともな食事をしました。駅の近くのレストランなんですが、ちゃんと冷房も(少しもの足りないけれど)入っていたし、価格もなかなかリーズナブルで、味もまあまあでした。ほんと、しばらくぶりで、普通にお食事しましたって感じ。それまでは、テイクアウトのピザとか、出来合のサンドウィッチなんかでしのいでいたわけですから。スパゲティ食べましたけど、味は日本のイタリアンレストランとほとんど同じですね。
イタリアの味って、わりとはっきりしているぶん、親しみやすいけれど単調にも感じます。一口めは美味しいんだけど、最後まで食べる途中で飽きるというか。私は普段、薄口の和食好みなので、よけいにそう思うのかもしれませんが。
そうそう、海外でもカリフォルニアのレストランのほうが、比べてみると薄口ですね。ハンバーガーとかステーキでも、わりとあっさりした味付けでしたよ。健康志向が強いのかもしれないし、スタンダードは薄口にしておいて、あとはお客の好みでプラスしてください、という個人主義なのかもしれません。

食事のあとは、いちおう日陰だけど、戸外にあるカフェテリアでなま暖かい風に吹かれながら、一服してました。私、食事したあとすぐは動けないんですよ。これで不自由なこともあるんですけど、でも、食べた後、急に走ったりセカセカ動いたりすると(そのときの体調にもよりますが)しんどくなるので、少し休憩が必要なんですね。で、まあ、そこに座って時間をつぶしながら、待ってました。ベネツィアからトリエステ行きの、各停列車をです。
時間が来ると、二時間も乗るのだからリラックスしていこうと思い、白ワインの小さなボトルを買って、乗り込みました。

「暑い・・・」

やっぱり冷房なし。外の気温はたぶん33℃以上はあるでしょうに、列車の窓は全開。
あのねー、いつの時代よ?って気分でしたね。マジで。
だって、私が高校生ぐらいの頃は、確か、電車の冷房って、列車によってまちまちだったんですよ。冷房つきと扇風機のみの列車が混在してたんです。今、二十歳ぐらいの人は確実に知らないことでしょうけど、日本もそういう状況だったんです。地下鉄だって、急行だって、冷房のある列車、ない列車が混在してました。だから、たまたま来た列車が冷房つきの新型車両だったら「ラッキー!」って感じだったんです。
もうずっと昔のことだけど、そんな時代を思い出しましたね。でも、いくらなんでも、冷房なしの電車に、二時間も乗ったことないです。
乗客も少ない列車、外の景色は何の変哲もない田舎、小さな駅に停まるたび、窓から吹き込んでくる風までがやみます。暑い・・・我慢・・・暑い・・・こんなんやったら、わざわざ一等の切符、買うことなかったやんか!!あほらしい。
これまで汗かかない病だった私も、さすがに身体が適応しだしたのか、シートにもたれた背中にしっとり汗が。

力なく「まだかなぁ?」とつぶやくのを、何度か繰り返していたら、おお、向かって右手に見えてきましたよ、海が。
トリエステは海岸沿いのリゾート地。早く着け着け、ゲストハウスに入ったら、そこではクーラー様がひんやりと私たちを迎えてくれるはず!
夫はと見れば、なんだか興奮しているような、困惑しているような、複雑な顔。学級対抗リレーで順番を待っている運動オンチの子供のよう。
「なあ、どうしよう!!焦ってきたぞ!!もうすぐトリエステに着くがな」
「着くがなって、あんた。そもそもの目的地がトリエステなんやから」
「おまえにはわからんねん!この緊張感が!あ〜〜〜どうしよう、緊張してきたぁ〜〜!」
「・・・今ごろ何言ってんのよ。これまで発表の準備する時間、いっぱいあったやないの」
「それがまだできてへんねん!」
「どうすんのよ、あんたの発表、もう明日の午後やのに」
「今夜やるしかない。おまえ、すまんけど、先に寝てくれ。いつまでかかるかわからんから」
・・・まあ、毎度のことです。だから、少しずつでも練習したらって、いつも言ってるのに。追いつめられてからでないと、エンジンかからないタイプだもんで、もー仕方ないですね。
急に焦り出す夫を尻目に、私はもう脳内リゾートモードに突入。
あ〜、のんびりしたい、のんびりしたい・・・

さぁ、そうこうしているうちに、いよいよトリエステに着きました。
小さな町ですが、ナポリのようなごみごみとした感じはなく、駅周辺もすっきり。
タクシーに乗って、いざゲストハウスへ。
このゲストハウスというのは、会議場やPCルーム、多目的ホール、カフェテリアなどが揃った宿泊施設のことです。ホテルではありません。この宿泊施設が学会の開催場所です。参加する人たちは、たいていゲストハウスに泊まるのですが、近くのホテルに泊まっていて、毎日、ゲストハウスの会議場とホテルとを往復している人もいました。

私たちを乗せたタクシーの運転手は、温厚そうなおじいさんで、「日本から来たのか?」なんて陽気に話しかけてきます。ゲストハウスの玄関に着くと、荷物も下ろしてくれました。
支払いのとき、おじいさんがメーターをちょこっといじると、それまでの値段に、プラス5ユーロぐらい一気に跳ね上がりました。
「え?」と怪訝そうにすると、「今日は日曜だから、特別料金でね」とニッコリ。
いや、確かに、イタリアではそうなんですが、それにしてもたいして乗ってないのに、こんなに高くなるもの?わからないまま、払ってしまいましたが、これも、あとで人に訊くと、「ぼられすぎ」とわかる。
まあ、おじいさんは、ほくほく顔でしたよ。私たちは、気さくで愛想のいいおじいさんやねーと言い合っていたのですが、そりゃ愛想よくもなるでしょうよ、私たち、いいカモだったんですから。とにかく、タクシーに乗れば、こういうことが多すぎます。

ゲストハウスの受付ロビーにはクーラーきいてました。
ようやくたどり着いたと心に余裕ができ、鍵を受け取ると部屋に向かいました。建物の端で、窓からは青い海が見える三人部屋。部屋には勉強机やPC端末もあり、バスルームも広々、清潔、冷蔵庫も備え付けられていて・・・
しかし。
一階のロビーでエレベーターにのりこんで、この階の廊下に着いたときから感じていることなんですが、この暑さは何??・・・まさか、クーラーないとか・・・
部屋中の壁を見回して、クーラーのスイッチを探しましたよ。必死の形相だったと思います。
で、「これ何?」と、壁にあるボタンを押してみたら、頭の上から生ぬるい風が。
見れば、ほら、天井にとりつけるプロペラみたいな大型扇風機が・・・
こんなんって、アリ?さっきまであんな暑い思いをして二時間耐えてきたのに!!
涙目になった私の頭のなかで、ブチッと切れる音が。
ちょっと!!これどういうことよ!?クーラーないやん!!扇風機だけ!?」
「そうみたいやな。でも海が見えてきれいやないか、見てみろや」
「(夫の言葉など聞かず)なあ、ここで5泊もすんの?うっそぉ〜〜〜!!信じられへん、クーラーもなしで!!もー、こんなところについてきたんが間違いやったかも!!ったく、このまえはサティアンやったし、あんたの出る学会って、ろくなとこでやらへんな!
「すまん、いやぁ、このゲストハウスには泊まったことないし、知らんかった」
「前に来たときは、どこに泊まったんよ?」
「ホテルに泊まってた。おまえ、暑いのに耐えられへんのやったら、近くのホテル探して泊まるか?」
「ここいらのホテルにはクーラーついてんの?」
「・・・いや、ついてなかったな」
じゃー、同じやん!!!

絶望的な気分になりましたよ。まあ、とにかく喉が渇いていたので、下のカフェテリアまで下りました。そんな暑い部屋にいたくなかったし。
そしたら、日曜で閉まってる。飲み物の自動販売機はあるのですが、たいていホットコーヒーとかそんな熱いもので、冷たいものがない。かろうじて、これジュースかな、と思われるものを買おうとしたら、売り切れ。おまけに、入れたお金も戻って来ず。もう、ぶちキレですよ。

喉かわいたぁぁ!何か飲まんと死ぬッ!!

人に聞いて、そこから階下に下りれば別の自動販売機があるとわかりました。
地下一階には、PCルームや会議室があります。ここが明日から始まる学会の舞台。でも、今は誰もいない。
隅のほうに、なるほど自動販売機が。ああ、ありましたありました、つめたいジュース!!
もー、その安っぽいジュースがどれほど光り輝いて見えたか!!
ほんと、どこの駅や道端にでも冷たいポカリスエットやアクエリアスや麦茶が置いてある日本は有り難いなぁと思います。昔は、「日本には自動販売機が多すぎ。街の景観が損なわれてる」などと思ったものですが、ない場合にどんなに困るか考えてなかったんでしょうねぇ。

しばらくクーラーのきいた地下でジュース飲みながら身体を冷やしてたら、喉の渇きとともに気分もおさまってきました。ふと疑問に思ったので、夫に訊きました。
「なんで、人もおらんのに、この階だけこんなにクーラーきかしてんのかな?」
「パソコンのためとちゃうか」
「ああそう、パソコン様は熱に弱いからか?ふうん。まあええわ。どうせ、ホテルの部屋とってもクーラーあるとは限らんし、私、このゲストハウスで泊まる。部屋は暑くても、この階は涼しいから、ずっとここにいたら耐えられるやろ」

それが賢明な選択だったと知ったのは、二、三日あとでホテルに泊まっている人に話を聞いたときでした。やっぱりここらへんのホテルには、クーラーなんてないのです。冷蔵庫もない、と聞かされたときには、さすがに驚きました。
しかし、トリエステはちょっとしたリゾート地だと聞いていたのに、思っていたよりショボイ。ショボすぎる。
いや、確かにみんな、海で泳いでいたりするんですが、リゾートと聞いてイメージする白い砂浜にビーチパラソル、みたいな感じじゃないんですよ。海岸は、砂浜じゃなくて、ヨットハーバーみたいなつくりで、コンクリの埠頭からいきなりドボンと海。どうやって海へ入るかというと、コンクリに梯子がとりつけてあるんですね。なんか、プールみたいです。
人もそんなに多くないし、お店だってごくごく限られてるし。ハワイみたいなゴージャスさはなくて、とってもとっても、ひなびた感じです。