No. 3= 針谷喜久雄×まりねこ

★科学文明批判・否定論とマスコミ

まりねこ;
はじめまして。本日はまりねこ対談にようこそいらっしゃいました(^^)
さっそくですが、読んでくださるみなさんに向けて、まずは針谷さんのご専門など
紹介していただけますか?


針谷;
物理屋ではありますが,「物理と化学の境界領域」っていうあたりをうろついています.
たとえば,サッカーボール型分子 C60っていうのの光学的性質などを物理学の
やりかたで研究しています.
なんていうのかな...化学の対象を物理学のやり方でやっているっていう感じ.
超分子のひとつ C60 ってサッカーボール構造をもっていてやたらに対称性が
高いんですね.こういった球状分子という構造の美しさが電子状態や光物性と
関係してまして,それが化学・物理の関係者を魅惑してしまったのであります.


ふうん・・・わかったようなわかんないようなですが、とにかく化学と物理の境界、
ということなんですね(^^)
ところで、針谷さん、先日、大阪でNTT回線にトラブルがあって、各方面で混乱が
起きましたが、実際、現代都市においては、まるでドミノ倒しみたいに、一部の
トラブルが、それに繋がるネットワークの、各末端にまで甚大な被害を及ぼします。
案の定、新聞では、識者のコメントがのっていて、その論調には、やはり、
「高度な技術になると、一部の人にしかそれがわからない」ということに対する危惧、
が含まれていました。
そういう分業化されたハイテク社会になってしまっていることは、
いまさらどうしようもないんですが、そのことが一部では、科学文明批判・否定、
というふうにエスカレートする根拠になってしまうのはどうでしょうかね。
どう思われます?



「科学文明批判・否定」は困りますです.
「高度な技術になると,1部のひとにしかそれがわからない」のは事実です.
しっかしその事実だけ捕らえて危惧を感じ,科学文明批判まで短絡させるのは
困り者だね.
どんな研究組織だって,細かい研究開発は若手レベルのかた何名かがそれこそ
職人わざみたくやっていますが,共同研究プロジェクト遂行の指揮をとったり
研究費の工面をしたりする有能な管理者がいるわけです.
研究機関として成功しうまく機能している組織は,そういう管理者の有能ぶりに
依存してる側面も大きいですよ.
大まかな視野でみて,研究開発プロジェクトの将来計画をデザインしたり,
世の中のニーズをくみ取ったり etc ...
わたしは,この点を強調しておきます.
新聞記者のインタビューの文言ですが,有識者の発言であるということだけ捕らえて
どうこう言う論調もいただけません.
重箱の隅をつついているような印象を感じました.
研究プロジェクトもそうですが,全体を見て欲しかったです.


でもまあ、そういうようなことって、一般にはよくわからないんですよね。
マスコミ報道は、センセーショナルなほどウケるということもあるし。
それに、識者の談話など、誰かを引き合いに出すと、簡単ですよね、
その人の肩書きだけで何かを説明したような感じになりますから。
でも、そういうのを、あまり問題視していない人もたくさんいて、
第一、新聞が嘘いつわりを書くはずないでしょって、
多くの人が思っている現状があります。



ふむふむ。そうなのよね。


やはりマスコミの影響力はすごいものがありますね。
ほら、オウム真理教のサリン事件があったじゃないですか。
あのとき、東大とか超一流大学に関わる人たちがオウムに入信してたり、
はたまたそれらの理系男たちが、サリン工場つくってたりして、
連日すごく話題になってましたよね。
うちの母などにいわすと、あれで、ずいぶん理系の印象がねじまがって
しまったというんですけど?



あの...あたしめの周辺には,東大在学時は同級生だったというかたもいます.
オウム事件など,ひとごとには聞こえませんでした.理系の印象って
やはりTV新聞などのマスコミ関係者の影響が強いと思われます.
そんなの跳ね返すくらいに科学啓蒙活動をやっていくのが,教育者や研究者の
使命のひとつなんだと思ってます.それの一環が,わたしめなどの関わっている
http://www.etl.go.jp/~harigaya/PHYS_FAQ.html
でありますし,
http://www.jps.or.jp/
として,学会情報も公開しているのですね.


もっと、こういった活動が、必要だと思うんですよ。
ほんとに、もっともっと、お年寄りや小さな子供にも、わかるような、
誰でも関心の持てるような、そういう啓蒙活動が。難しいですけどね。
でも、大勢の人にとって科学者が、
「なんだかよくわからないことをしている人たち」では、いけないと思うんです。



★研究者の世界って、やっぱり狭い?

大槻センセイなど、けっこうエライんじゃないかって、私なんか思いますよ。
低レベルなトーク番組などにも出演していらして、身体はってますからね(^^)



あのー、大槻先生とは同じ市内に住んでいました。
中学校時代から大槻先生の御尊名をしっていたりと。。。
大槻研究室がひとだま観測をテント合宿やったという場所も知ってます。
市内でひとだまのうわさの絶えないところですよ。
(そんな因果で、物理学科へ行ってしまったことは無いです。これは断固否定します!)
そしてさらに、世の中狭いですねぇ。。。わたしめの大学院時代の研究室ですが、
2年先輩には大槻先生の息子さん(いまは上智大学のセンセ)がいました。。。
対談ですから、こんなことまで、明かしてしまいました。(^^;)


そうなんですか(^^)
そういえば、そのかた、阪大にいたこともあるって、聞きましたよ。
研究者の世界って、やっぱり狭いんですか?
専門ごとに細かく分かれているって聞いてるんですが、
違う分野とのつながりは、わりと希薄なんですか?
たとえば、物理と生物の研究者同士のつながり、なんてのは。



狭い狭い.ちょーセマッ.物理学会会員2万人とはいっても,この分野で数年
メシ食っていれば,年会,分科会というおおきな会合に出掛けると,
久しぶりに会ったかたと挨拶してばかりとか...
で、研究分野間の「境界領域」のおはなしですが,これは研究者個々のやり方に
よると思います.10年20年と同じコミュニティで暮らすかたもいれば,
視野を広げていろんな分野のかたとギロンを楽しむやりかたもあります.
わたしなどは,物理と化学の境界領域にいますもので,それこそ化学者とおはなしする
ことも多いです.ええと,実際,1996年にノーベル化学賞の対象になった物質群を,
1998年にノーベル化学賞をもらった人(ポプルさんです)が関わった
理論的研究方法で物性理論研究しているのです.
要は、わたしなどは「境界領域バンザイ!」と叫ぶほうの側であるわけです.


はぁ、なるほどね。そのあたりは、いろいろなタイプのかたがいらっしゃると。


★科学教育 vs カルト・トンデモ

じゃ、ちょっと話をもとのオウムに戻しましょう。
私がわからないのは、いやしくも、東大の理系なんてハイレベルな科学教育を
受けている人たちが、なぜああいうカルトに入っちゃったんだろうってことです。
そのへんが、テレビで見ていて、みんながもっとも奇妙に感じたところだろうし、
また、巷の科学技術に対する漠然たる不安を助長した原因のひとつじゃないですか。



平均的には「ハイレベル」ですが、研究向きじゃないひともいるわけです。
大学院の修士課程入学試験は、試験と面接だけですから、そこそこ合格点に
達していれば、修士課程に入れます。
入った後、研究の試行錯誤など地味な作業の繰り返しにやんなちゃって、
どっかへ現実逃避してしまうひとは、時たま出るようですよ。
サリン事件に関わったかたは、現実逃避先が、「オウム」だったと
いうことなんでしょう。
現実逃避先として、法学部に学士入学し、いまは顧問弁護士などで活躍して
いるひともいます。。。
また、音楽大学に入りなおして、音楽家になっちゃったひともいます!
いやー。。。なんて云うか。。。
あたしにもついて行けない世界がありますです。(^^;)


ふうむ・・・
何か一つに秀でる人は、他の分野でも応用がきくのでしょうか。
それにしても、「教祖の血を飲んで、そのDNAを取り入れる」だの、
あまりに突拍子もない考えに見えますが、専門に高等科学教育を
受けた人間が、いくら現実逃避だといっても、簡単に信じてしまった、
これは危険ですよね。本来、科学精神の基本は批判と検証ですものね?
思うんですが、物理や化学のお勉強には長けていても、ほんとうに科学的な
思考法をきちんと身につける機会、というのは、案外少ないのではないですか?
中学や高校の授業では、そんなこと教えてくれないですから。
大学では、そういう面での教育って、どうなっているんですか?



そうね.教祖のいう,わかりやすくアタマに入って行きやすい文言を
無批判に取り込んでしまったような因果かと思います..
大学学部教育段階でも,ノートをきっちり取って暗唱してしまうような学習法じゃ
思考能力など身に付きません.物理学科の教科でも,講義科目などよりは,
演習や実習を考えながらやることがとっても大切なんです.
考えながら進めることで批判能力もそなわり,トンデモ系の本に書いてあることを
見破るようなマナコが養われていくんじゃないでしょうか.


そういえば針谷さん、「トンデモ」についてはどう思われます?


トンデモ系のはなしなどは,ひとつひとつ潰していくのが大事でしょう.
それに大学生協にてトンデモ本を専門コーナーにいっしょにならべられないように,
生協書籍部の職員を教育したりとしているひとも知っています.
地味な努力になってしまってます...


はぁ、そういうことも、考えていらっしゃるんですね。
というのは、やっぱり、似非科学などには、ほんとうに科学書と紛らわしい
タイトル、内容の本がたくさんあるからなんでしょうね。
フリーエネルギー、永久機関などは、どうなんでしょう、
私などが読んだり聞いたりすると、科学者が研究している立派な科学に
見えたり聞こえたりもするんですが、あれって、じつはトンデモ?



「フリーエネルギー」「永久機関」関係など、ほとんどがトンデモ系だと
思ってよいでしょう。YPMLページ
http://www.etl.go.jp/~harigaya/doc/surfers.html
にあります、千葉大の大豆生田さんの Web ページがトンデモ本リストとして
充実しておりまする。 (^^;;;)
「ドクターナカマツ研究」もみものです!


あの。私などからすれば、悲しいことに、トンデモと科学を見分けるすべが
ない場合ありますよ。「フリーエネルギー」よりも、大槻教授の「火の玉研究」の
ほうが、なんか文字だけ見ると、よっぽどトンデモに思えちゃったり(^^)
まっとうな科学と、そういうトンデモな似非科学を見分ける方法を
ここで教えてくだされば、ありがたいんですが。



本の題名やキーワードだけではとても一般的に見分けることは難しいと思います.
でも,まりねこさんはもう心配ないのでは.
小谷さんとか西野さんとか,親切な理系の友人を作ってしまったので,
「本屋でみつけた,この本は,トンデモ系ですかぁ?」
とメールで質問すれば,教えてくれるんとちゃいません?
わたし宛でも,かまないですが...(^^;)


そ〜ぉでしょ〜(^^)
だ・か・ら!理系の方々や、その研究などのことを、私たちはもっと知るべきだし、
お友達になるべきなんですよねー。
それで、理系の方々も、もっとフレンドリーに近づいてきて欲しいですね。
みんなが、お互いの立場や知識を交換し合うべきだし、そうでなければ、
この先、やっぱり困った事態になってくると思うんですよ。
私はね、ここでそのことを強く言いたいんです(^^)



御意。(国語辞書を引くと「仰せの通りであります」の意味よね ^^;)
旧かな使いじゃ、「ぎょひ」かな?
それから、「科学的な思考法をきちんと身につける機会が案外少ない」と
仰せですが,どこの物理学科だって思考能力がつくような課程は組んでいると
思います.これも地味なハナシですが,学生の取り組み方次第で,課程制度は
生きても来ますし,死んでもしまいます.
地味なことをやるような努力家の割合が年々減っているそうですが,
それに高校教育段階の物理離れも加わって,大学の先生は大変らしいです.


これは、ちょっと耳が痛いですね(~_~;)
学生の取り組み方次第だといわれると・・・
私は、高校の物理や化学なんて、大嫌いだったので。
なんかね、もうぜんぜん興味もてないんですよ。
で、そういう理系の先生たちに限って、あんまり文句とかいわないので、
私は授業中、マンガ読んだり居眠りしたり、友達に手紙書いたりしてました(^^)
まあ、もっと子供の頃から、そういう思考法を身につけさせるというか、
考える能力を伸ばせる教育が大事だと思うんですけど。
でも、実習や演習などをきちんと指導するって、なかなか大変だし、
実際に時間やお金もかかるでしょ。難しいですね。



★理系教育と女性

だいたい、女の子は理数系科目って苦手ですよね。
だから、私はあえて「理系の男たち」なんて呼んでるんです。
まぁ、女性もいるのはわかってますが、すごく少ない。
これは、なんででしょうね、私はやっぱり、動機づけじゃないかと思います。
なんか、「やってもおもしろくなさそう」なんですよねー(~_~;)
だって、滑車だの、ビーカーだの、金属片だの、ガスバーナーだの、
ぜんぜん見ても触っても可愛くないし、何の関心も持てない素材なんですよ(~_~;)
だけど、女の子たちが、理系の分野にもっと関心をもって、進学するようになれば、
ほんとにいろんなことが、変わると思うんです。
たとえば、研究室がもっと美的・快適になるとかね(^^)
でもって、そこでロマンスが生まれるとか(^^)



いやはや、聞くところによると、上智大学物理学科って実に画期的なことに、
女の子が3割近く在籍しているらしい。
3割も女の子がいると、男連中、むさいカッコしているといろいろ云われる
らしいから、こぎれいにさっぱりしたカッコしているらしいですよ。
大学院だって女子学生がけっこういるらしく、研究室も片づいているらしい。


でしょー、やっぱりぃ〜 (~o~)


いつか、東京にいらした折りに、見学してみてはどうでしょう。
まりねこさんの理系研究室のイメージがまた変わることうけあいです!
お茶の水女子大学の物理学科も訪問させていただいたことありますが、
ここもきれいでした!


ふーむ。わかってきましたよ〜(~_~;)
ということはですねー、私が見学したあれら研究室のむさ苦しさというのは、
必ずしも「理系世界のむさ苦しさ」ではなく、「男世界のむさ苦しさ」
だったのですね!
ン?・・・でもでも、一部の「理系の男たち」のあいだでは、
「自分のところはもっときれいだ」とか、
「私はもっとクリーンな実験室を見たことがある」という意見も出てますから、
ひょっとしたら、あれは、「あの界隈の男たち」のむさ苦しさだったのかもしれません!
ま、建物の古さとか、それまでの「伝統」ってありますからねー。
先輩がむさ苦しくしていると、やっぱり後輩もむさ苦しくなってくる(^^)



うわさによると,まりねこさんが見学したその何個かの研究室って,
伝統的にむさい雰囲気の場所らしいので,「あの界隈の男世界のむささ」を
かいまみてしまったのでしょう.


出会い頭の事故、みたいなものなのね・・・ブツブツ(-_-;)


関西で、物理学科のある女子大学と云ったら、
京都女子大学、奈良女子大学と2つ思いつきました。
関西の事情は疎いので、もっとあるかもしれません。


あ、ぜひ行ってみたいです(^^)
いわば、「理系の女たち」ですね。面白そう!
真面目な話、私、ほんとに女性がもっと科学者を目指してほしいと思うんです。



そうですね.もっと女性にも科学者を目指してほしい!
じつは5年前あたり,1年間英国で研究していたのですが,そのときホストだった
物理学科先生は女性の先生でした.
英国の紳士淑女録を見ましたら,「英国の女性研究者を励ます会(そんなような
名称だった.正確には覚えてないけど)の会長として社会活動にも貢献している」との
1文が見えたのです.
英国の物理学会誌でもコラム記事をみた覚えがあります...
こういう先生がホストだったのですが,ギロンしたのは研究関係が中心でした.
社会運動のほうに関してはあんまり尋ねたことなかったなぁ.
ゲーリング先生っていうんですが,そう言った方面でも英国内で有名らしいでした.


やっぱりね、同じ科学者になったとしても、男性の感性と、女性のそれって、
きっと違うだろうと思うんです。
それはもう、あたりまえなんじゃないかしら。
で、どっちか一方だけでものごとを動かしていくと、なんかぎくしゃくする。
高校三年のとき、私は文系進学クラスで、1クラス約50人のうち、男子は
10人ぐらいでした。そんな状態だと、やっぱりなんだかつまんなかったです。
三年のときの体育祭、文化祭、どことなくつまんない印象。
たった一年でもそう思うのに、それが大学まで続くとなるとねー。
理系の男たちって、そういう悲哀みたいなのがないですか?
べつに、クラスに好きな異性がいるとか、そういうんじゃなくてもいいけれど、
異性の姿のない教室って、なんか味気ない感じしますね。
理屈じゃないんですよ、そういうのって。私たちもやはり生き物だから。
男は女が見ていてこそ、いいとこ見せて頑張れる、逆もまた真なり。
それって自然でしょ。そういうモンだと思うんですよ。



まりねこさんの体験然りですね.あたしめは,高校3年間男子高校でした.
ほんで,教養学部のクラス50名全員オトコで...ってな感じて,
むさい雰囲気でずっと過ごしてしまったからなぁ.
あたしの体験もあなどれません! ^^;


その体験、人と比べてみると、面白いかもしれませんね(^^)
男女共学と、女子校、男子校って、やっぱり、明らかに雰囲気が違うそうですから。



確かに、女性の発想と男性の発想は、感性の違いによるところもいろいろ
ありそうですね。
ここ、電総研だのもかなり男社会ですし、わたしめ、そういった意味での体験が
薄いので、もっと深い議論には経験不足なのがタマにキズです。。。
ぜひ,奈良女子大学とか京都女子大学,近いでしょうから訪問してみてください.
また,関東の上智大学に当たるような,関西のミッション系私立大学にも
物理学科はあったと思うんで,そこらへんじゃ自然なカタチで男女混合した雰囲気が
見れるかもしれませんよ。


そうですね、ぜひいつかお伺いしてみたいです(^^)
針谷さん、本日はどうもありがとうございました。



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