CD「そうかな」小田和正

小田和正インタビュー「たしかなこと」小貫信昭


えっと、今回は、インタビュー本「たしかなこと」の内容をふまえながら、小田さんのニューアルバム「そうかな」を聴いていきましょう。
といっても、なんかどっちも「ほほう!!」という新鮮味がないんですよね。
なんでって、インタビューで語られていることやそのやりとりの調子は、ずっと前に出版された同じインタビュアー小貫氏による「Yes−No」とかぶる部分がだいぶあるし、アルバム「そうかな」にしても、タイアップ曲が多すぎて、「あ、これシチューのCMで聴いたな、そうそう、これはテレビニュースのエンディングで流れてた、ええとこれは・・・」という感じですから。
小田和正がソロになってからのアルバムのなかでは、やはり「個人主義」が出色で、いちばん「らしかった」と思うのは私だけ??まー、コンセプトというかアプローチがまったく違うし、比較しても仕方ないですね。

それにしても、ジャケットの絵はなんとかならないものかと。
(ちなみに、理系夫に言わせると、うしろの黒板に書かれた数式について、「こんなヘンな数式・・・いかにも文系の素人が書いたって感じやな」と評してました)
いや、ジイサンになってから、自分の写真を大写しで使うのは嫌なのはわかりますよ、だけどこのイラストシリーズ、あまりにもお洒落じゃないし。好きじゃないです。他にいくらでもマシなのができるでしょうに。
うん、オフコースの頃からなぜか「センスよく洒落た方向から、それていこう、それていこう」という傾向はありましたよ、しかし、「Song is Love」なんかのジャケットはまだよかったし、なんでこうなったのかなぁ。もうNEXTの着ぐるみなんか最低でしたから。冗談ではすまされなかったな、あのDVDのジャケットは。手にとるのが恥ずかしいぐらい。おいおい、「投げやり」でやってんのか?みたいな。

で、「そうかな」の意味は「相対性の彼方」の略らしいんですね。このへんのセンスも、もう、あの服とか帽子とかと同じ、「もー、誰か何とかしてあげて!!」という気持ちになりますが、本人が「とぼけた感じでいいじゃん」とか思ってますからどうしようもないです。確かに「そうかな」なんて小田さんしか思いつかないかも。
もとから野球少年でゴルフ狂で理系で、「歌詞を書くのが一番たいへん」というんだから、小田さんの言語センスには期待しちゃいけないんですよ。なんたって自分が商売にしてる歌詞の語彙が、こんなに貧相な人って珍しいですよね。英語の発音だって、もうずっとビル・シュネーとつきあいがあるわりにはアレだし。
偏見と独断に満ち溢れてますけど、ほんとに、「青春時代は男子校の理系クラスで過ごしました」的なアーティストですな。だって、この人、女性に受けるラブソングばかり書いてきたと思われて、女々しいなんて言われてましたが、実は「女にふられたことないし、そういう男女のドロドロした歌詞かけない」人なんですよ。
ふられたことないっていうのは、モテてたからじゃなくて、根本的に硬派というか気持ち的に「男世界」の住人なので、女というものを自分から切り離して、ちょっと距離をおいて見ている、みたいな気がします。生身の女というものがわかっていない、その点においては「愛ルケ」の渡辺センセイと同類。もちろんベクトルはまったく逆ですが。

私は、小田さんのなかでは「男の友情>>女」なんだと思います。
で、オフコース解散後、何が歌づくりの原動力になっていたかというと、まさにその解散によるトラウマですね。
盟友、鈴木さんが「やめる」と言ったので、そのあとゴタゴタして、オフコース解散に至った、だから解散の原因となったのは鈴木さんだと思われているふしがありますが、そうじゃないと思いますよ、オフコース解散について一番責任があるのは小田さんで、本人もそれを自覚していたから、
♪誰のせいでもない、自分が小さすぎるから、それが悔しくて、言葉にできない
と正直に歌ったのだろうし。
自分はバンドマスターの自覚があやふやなまま祭り上げられていって、結果として鈴木さんの曲はいつでもB面、アルバムのなかでも目立たなくなっていきましたし、それは才能の差だから小田さんのせいではないけれど、もっと早く自分の立場を把握して、鈴木さんの不満やとまどいに気づいてあげるべきだったんですよね。
「ヤスがやめると言ったとき、ひきとめた」と言っているけど、ほんとうに心底ひきとめる気があったか?
そこに全力を尽くしたか?そもそもヤスがそう言わざるを得ない気持ちになったのは、自分が鈍感だったからではないか?・・・小田さんにしても、内省的に考え込んだのでしょう。

結果的に、たぶん、「自分が状況を把握するのが遅すぎたし、対処も中途半端だったのかも」という認識が徐々に芽生えてきて、見えてるつもりで見えてなかったこと、大事にしているつもりでしていなかったこと、いろいろと気づかされたんだと推測します。その悔しさ、哀しさ、後悔がトラウマになって、そこからいろんな歌が生まれた。そう考えないとソロになってからの小田和正が、普通のラブソングに見せかけながら、実のところ「懺悔ソング」とでも呼ぶべきものを、あんなにもたくさん書いていた意味がわからない。
情景は違っても歌詞から想像できる懺悔ストーリーのパターンはいつも一緒で、
「はじめて会ったときからずっと好きだったのに、どうして離れてしまったんだろう、仕方なかったのかな、それとも僕のせいなのかな、きみにはもう会えないのかな・・・いまこの時はもう戻らないのに」
煎じ詰めれば、この二行をずーーーーっと粘着に、手をかえ品をかえ歌いつづけてきたような気がします。

小説家だって画家だって、自分のなかにあるトラウマがほとんどの作品をつくるための原動力になってる人がたくさんいますし、それでこそ職人でなくアーティストなんじゃないか、とか思ってみると、小田さんの場合、二人オフコース時代は「これから自分はどうなるのかな」「世界はどうなるのかな」という未来への鬱屈、「人並みの女性への関心・妄想・幻滅」が歌作りの原動力になっていたし、解散を経てからはもう、それらを吹き飛ばすほどのトラウマ「盟友、鈴木さんが、ひきとめても頑として去っていったこと」が一大原動力なんですね。
「女にふられたことがない」小田さん、心の中で大きな比重を占めていたはずの「男の友情」が一方的に失われたことで、ようやくアーティストらしい心の傷を負った、といえるのではないかと思います。で、それを核として持っていれば、いろんなバリエーションで曲が書けるわけですよ、でも言語センスがアレなのでストーリーそのものは上に書いた二行に要約できてしまうわけですが。

でも、「個人主義」あたりからそのトラウマに決着がついてきましたね。
たぶん、「個人的な思いも込めて」つくっただろう、あのアルバム、そのまえに大きな交通事故なんか経験してますし、何か心境の変化を起こす原因になることがあったんでしょうか。
そして、この「そうかな」。
あ、そのまえに、テレビで「風のようにうたが流れていた」という音楽番組のレギュラーやりました、あの番組みていても、もうひとつ突き抜けた、トラウマから解放されて、もはやそこに執着するのはおしまいだと、一皮むけた感じがハッキリありましたね。
過去を清算して、自分の未来の幕引きをするための伏線、そして、今後の世界を担っていく子供たち、若いアーティストたちに、しっかり目が向いている。だから、この「そうかな」ジャケットも「先生」の姿が、つまり、先を歩いてきた者、経験を積んできた者の象徴として、使われているのだろうし。
自分の内面ばかり見てきたけれど、もっと広く見渡せば、これから「今」を生きていく若者たちが視野に入ってきた、というところでしょうか。そして、思い切って個人に埋没した「個人主義」から、相手というものを見据えた「相対性」。その彼方に、何かを託すんだ、ということでしょうか。

それでは、一曲目から聴いていきます。

1.まっ白(TBS系ドラマ「それは、突然、嵐のように…」主題歌

またもう、このタイトルのセンス・・・いや、本人は「とぼけた味」でいいと思ってるんだから・・・
はっきりいって、あまりインパクトのない駄作かな。ドラマもコケたようですし。
小田さんが歌っているから、あの声だから、まだ聴けるけどって感じです。
なんでこれをトップにもってくるんだか・・・

2.静かな場所(日本テレビ系「素顔がイイねっ!」エンディングテーマ曲)

微妙に「懺悔パターン」ですが、最後は年寄りらしく水彩画のように淡くぼかしてあります。
そこんとこに、力の抜けた感じがアリアリ。
この曲も小田和正が歌わなかったら、どう評価すべきか??

3.大好きな君に(NHKアニメ劇場「雪の女王」エンディング曲)

シチューのCMでもお馴染み。
ほんとうに歌詞を書くのが苦手なんだなーと思わされます。
メロディラインはそこそこ。

4.僕らの夏(「ABUアジア太平洋ロボットコンテスト2002東京大会」テーマ曲)

小田さんお得意の「男の友情」もの。
二胡の響きが美しい。

5.Re

この曲だけタイアップなしです。
なんかもう、ある意味、開き直って怖いものなしです。
書きたいから書いたんだけど、何か?みたいな・・・

6.正義は勝つ(MBS・TBS系「世界ウルルン滞在記」エンディングテーマ)

なんでこの歌詞でこのメロディで「正義」なのか、ほんとにこの人の言語センスは突飛。
ほら、そこらのオバサンに人生相談なんかすると、「まあまあ、そんなこともあるわよ、気を落とさずに」
「今度はきっとうまく行くわよ、応援してるからねっ」
「若いんだからさ、前進、前進。ためらってたら歳だけとっちゃうわよぉ」
なんて、とりあえず元気づけてくれるけど、何の具体的な案もでないんですよね。
猪突猛進、なんとか乗り切ろうぜ、という無責任ソング。ライヴでの盛り上がりを意識した曲かも?

7.たしかなこと(明治安田生命企業CM曲)

この曲については、聞いて(71)で詳しく書きましたね。
あのときはテレビでのライヴ・ヴァージョンだったので、CDではどんなふうになっているんだろうと期待してました。やっぱり歌の歌詞は二番までなくちゃいけないのかな。二番の歌詞がどうも足を引っ張っている感じ。
♪自分のこと大切にして・・・
から、
♪いつの日か みつかるはず
までなんですが、この部分がどうにも不必要っていうか、文学的にみて難あり。
テレビの省略版のほうがタイトにまとまっていて、声も伸びていたし、よかったですね。
とはいえ、この曲で見せる小田さんの歌唱力は、ただものではない。
天性の声に頼るところもあるけれど、それプラス、技巧とか気持ちも入ってます。
一言でいうと、やさしい。
小田さんが、こんなにもやさしい声をだして歌ったことがあっただろうか?
透明感とかクールとか清涼感とか、いろいろ形容されてきたけれど、若い頃はもっと金属的・無機的な響きがあったし、こんなやさしい温かみのある歌い方は、どんな曲に対してもしていなかった。
ソロになってからは、いろいろと試行錯誤していたようだけど、なんだか不自然さもあったし。
高音が出るだけが能じゃない。技巧に優れているだけが能でもない。
ほんとうに、小田さんがここまでやさしい歌い方をしたことがあったろうか?私には思い出せません。
♪時を超えて 君を愛せるか
の「か」の少しかすれた弱さと、
♪忘れないで
から始まる力強さの対比に、もーメロメロです。

8.僕ら(日中合作映画『最後の恋、初めての恋』主題歌)

抽象的な曲。ここでも使われている二胡の響きが印象的。
歌い方には力が入ってます。

9.明日(テレビ東京「ワールド・ビジネスサテライト」エンディング テーマ曲 2003年4月2004月)

これは911テロの後で書かれたということで、確かにそういう曲だと思います。
しかし私がひっかかってしまうのは、後半の少年少女合唱団とのユニゾン。
ラララーとかで使うんじゃなくて、歌詞をはっきり歌わせてますから。これはどうなのかな。
♪涙に震えながら 戦うべきときがあるんだ
以降は、かなり大人の歌詞で、どうも子供の声がバックに入っていると違和感を覚えるんですよ。
わけもわからず歌わされているという感じで。
この歌詞が、ほんとうに理解できるわけないんだから・・・全体が嘘っぽくなるんです。
ある種の平和的な雰囲気が欲しくて、あるいはメッセージ性を強調するために、合唱団を入れたのでしょうけど、ちょっと姑息な感じがしてしまいました。曲自体は好きですけどね。

10.風のようにうたが流れていた(TBS系月曜組曲「風のようにうたが流れていた」テーマ曲)

これもCDではどうなるかと楽しみにしていた曲。
これはフルバージョンのほうがいいですね。二番の歌詞も必要だという気がする。これがないと、
♪あの夏の空・・・
から
♪昨日のことのように
までの感動が薄れるような感じ。
歌詞に関しては、一番納得がいった一曲です。メロディもいいし、押さえ気味のアレンジもいい。

11.そして今も(映画『マラソン』日本版テーマソング)

この曲は、本人が「同世代に向けて」と言っていますが、まあそういう感じです。
こういうアンニュイな雰囲気のつくりは、わりと珍しいかもしれません。
しかしこんな曲をどうやって映画のテーマソングに使うんだか・・・不可解。


全体的に、コンセプトがはっきりしないベスト盤って感じですが、これが今の等身大の小田さんなのかなと。
これで引退ってことにはならないでほしいですね。でも、長年、曲作りの原動力になっていたトラウマは解消したし、ほんと、肩の力抜いてやってるって感じだから、今後、緊張感やインパクトのあるアルバムをつくるのは厳しいかもしれません。なんせ、もうお歳ですし。老後をリッチに過ごせるだけの資金も充分入ったでしょうし。
「風のようにうたが流れていた」をテレビで見ていなかった人には、このアルバムよりそっちのDVDのほうが「買い」かもしれません。クォリティの高さという点で。いや、値段も高いですけれども・・・
私?いや、今は買いません。一応、ビデオにとってあるし。
小田さんが引退したら、いろんな商品がドバーっと出てくるはずですしね。




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