Ljubljana

さて、学会の最終日、昼下がりまでゲストハウスにいました。
いよいよリュブリャーナ(スロヴェニアの首都)へ向けて、また短い旅の始まりです。
トリエステとリュブリャーナは地図で見るとすぐ近所。一日に何回か、快速電車が行き来しています。所要時間は約二時間半ぐらい。鉄道駅は私たちの泊まっている海辺のゲストハウスから離れた小高い丘のうえ。オプチーナという場所です。私としては、ちゃっちゃとタクシーで行きたかった(荷物も多いし)のですが、学会が終わって時間のできたM君、Sさん、それにクロアチアから来た研究者のひとりが、何を思ったのか市内見物に出かけようといっていたので、一行にご一緒してバスに乗ることにしたんです。結果的には、これが大正解。
海岸から市内までは、十五分もかからなかったですかね。それから一行とお別れした私たちは、市内を走るトラムに乗りかえて鉄道駅まで。これまた乗っている時間はたいしたことはなかったのですが、ゆっくりゆっくり走る小さなトラムの窓からは、丘を登るにつれ視界が開けてきて、だんだんに市街の景色が一望できるようになるんですよ。
高いところの好きな夫は大喜び。まあ、あまり高いところに興味がなくても、いっぺん乗ってみて損はないです。風情があっていいし、安いし。ぼられないしね、タクシーと違って。

オプチーナはごく普通の人たちが静かに暮らしている山の手の街という感じですが、道を尋ねたり、商店で買い物をしたりしても、人々の反応がすごくいいですね。観光地のイタリア人みたいに、すれてない。慣れない英語と身振り手振りで一生懸命に話してくれます。ローマやナポリでささくれた気持ちが少しほぐれました。
トラムの終点から、すすけた田舎の鉄道駅まで歩き、ぼつぼつ日が傾いてきたなか、人もまばらなホームで少し心細くなりながら電車を待っていたら、来ましたよ、快速。
見てびっくり、乗ってびっくり。
すごくきれい!新しい!ちゃんとクーラーきいてる!
この電車自体は、スロヴェニアのものなんですよね、まー旧共産国ってことで、そんなに期待してなかったんだけど、シートのゆったり加減といい、清潔さといい、日本の新幹線より快適!もちろんユーロスター・イタリアより、ずっとずっと快適!
うーん、ちょっと認識を新たにしました。
「ひょっとしたら、スロヴェニアって、案外いいところとちゃうん?」
期待に胸をふくらませ、たっぷりと余裕をとったシートに、満足げに身をもたせかける私たち。
いや、まさかこんなぼろっちい鉄道駅から、こんなピカピカの電車に乗れるなんて、思いもしなかったんですよ。時間的に遅いせいか、私たちのほかに客も少なく、ほとんど一車両貸し切り状態。チケットは持たずに乗って、回ってきた車掌から買う、という方式でした。
この電車、動き出すと普通に速いんですが、いったん駅に停まると待ち時間がすごく長いです。二十分とか。なんでそんなに長々と停車させているのかわかりません。それさえなかったら、たぶんもっと早くリュブリャーナに着けたと思います。スロヴェニアに入るとき、車中にてパスポートの検閲がありました。ごくごく簡単なもの。ちらっと見るだけです。質問もなにもされず。

こうしてリュブリャーナに着いたのが八時を回っていましたね。マクドナルドなんかもある、けっこう綺麗な駅です。
駅からそう遠くないホテルを予約していたので、すぐにチェックイン・・・と思ったのですが、意外と手こずるのが、言葉の表記。うえのタイトル見て、リュブリャーナって読めます?なんか、ローマ字とか英語読みと全然ちがうでしょ?だから、地図を見ても、通りの名前が読めない。っていうか、頭にしっくり入ってこないんですよね。言葉っていうより、記号ですよ、もう。というわけで、歩けばすぐの距離なのに、ホテル探すのにちょっと手間取りました。
リュブリャーナの物価は高くもなく、そう安くもない感じですが、ホテルはけっこう割高な印象です。私たちは、ネットで見つけて予約したんですが、ちょうど、その時期、リュブリャーナでなにかの催しがあったらしく、首都とはいえ小さな町のこと、ホテルもごく少ないので、空いている部屋を探すのに苦労しました。結局、ここに二泊したんですが、わりといいところでした。
すごく狭いしクーラーはないけれど、改装された部屋は清潔で、なんといってもホテル一階のレストランがよかったです。
部屋に荷物を置いて、どこかで夕飯を食べようとしたのですが、不案内な土地で、しかも、時計を見たらもう九時ちかく。手近にあったところで、ということになり、それがこのホテルのレストラン。これもぜんぜん期待してなかったんですけど、ウェイターの態度もテキパキしてて好感もてるし、運ばれてきた料理も美味しい!!
いやー、それまでずっとイタリアンでしょ、もういい加減、飽き飽きしていて、だけど、すぐ隣の国だから、どうせここも似たような味なんじゃないかと思っていたら、全然ちがう!
薄味でこれといった癖がなく、あっさりしていて日本人好み。ホテルのレストランなのに値段も手頃。もー、やみつきになって、けっきょく、リュブリャーナに滞在中は、そのレストランばかり利用しました。どんな料理を頼んでも、あまりハズレがないと思います。日本人にとっては、「美味しい洋食」というイメージですね。
翌朝のビュッフェも、そう豪勢ではないけれど、いろんなパンやミニケーキ、コーンフレークス、ヨーグルト、フルーツ、チーズにハム、ソーセージ、たいてい冷たいものばかりだけど、そこそこいろんな食べ物が並びましたよ。イタリアのホテルの簡素な朝食に慣れた私たちにはえらいご馳走に見えました。

朝食のあと、観光しようと街をぶらつきに出ました。
リュブリャーナは小さな首都。見るべきポイントは、歩いてでも充分に見て回れます。イタリアにいたときと違って、気温はちょうどいい感じ。クーラーなしでも暑くなく、朝夕は涼しいので薄いカーディガン携帯です。
建物は新旧入り交じってますが、全体に清潔なのが印象的。道端にはゴミひとつ落ちてません。道行く人々の格好も雰囲気にも、清潔感があります。日本人には出会いませんでしたが、観光客はけっこうたくさんいます。
ホテルから中心街の広場まで行くと、土曜日だからか市がたっていて大にぎわい。大きなパラソルやテントの下では新鮮な果物や野菜などを積み上げて量り売りしています。広場の周りにはアイスクリームスタンドがあり、カフェからも椅子やテーブルがあふれています。
その日はお天気が不安定で、朝は晴れていたのに、突然に大雨が降り出しました。人々は屋根のある場所を探して大移動。私たちも、広場の一辺である川沿いにつくられた狭いアーケードに避難しました。その長いアーケードのしたにも、小さな店が立ち並んでいます。一階はコーヒーショップや土産物売りなどですが、地下にはパン、チーズ、お菓子、ハム、魚、などの生鮮食料品店がずらり。なんだか、すごく食べ物が豊富で、ゆたかな感じがしました。パンなどもいろんな種類があって、見ているだけでも楽しいのですが、目を引かれたのはドライフルーツの多さ。どこからこんなに、と思うくらい、色とりどりのドライフルーツが一山いくらです。珍しいのでお土産に買って帰りました。そのまま食べても、とりたてて「美味しい!」というものではなかったですが、コーンフレークスやグラノラに混ぜるにはもってこいですよ。

新しいビルやメインストリートの建物の一階にはブランドブティックが入っています。歩いているとそれらが目立つのですが、地味で庶民的なデパートという感じの建物もあって、入ってみたら、日本と比べて品揃えも少なく全体に閑散としているんですけど、とりあえず必要なものはみんなある、という感じですかね。猫の餌までありましたよ。
市内にはモダンな超高級スーパーもあったんですが、こちらは本当にリッチな感じです。広くて明るい店内に、野菜から肉から、日用品まで、国内外の商品がずらりと並び、特に、缶詰やパスタ、日用品などではインポート物が多かったですね。化粧品なんかも各国のブランドものが揃っていて、お金さえあれば本当に何でも手に入ります。小さな国の小さな首都だけど、けっこうリッチなんですよね。
モノが豊かで潤っているせいか、まだ観光客ずれしていないせいか、人もセコセコしてないです。土産物屋でも、あれこれつきまとって売りつけたりせずにゆったり構えているし、立ち寄ったお店の店員なんかのマナーもたいていは好印象。あるカフェで夫が飲み物を頼み、お金を払って席を立ったんですが、お店のお兄さんが後から小走りに追いかけてくる。何かと思えば、夫が代金を余分に払いすぎているからと、小銭を返しに来てくれたんです。
いやー、珍しい!!ちょっと感動ですよ。これがナポリやローマだったら、こんなこと、まず「ありえない」でしょ。
教会だの、美術館だの、お城だの、そういういかにもヨーロッパ的な観光資産は、他のもっとメジャーな都市のほうが、豪華絢爛だったり、表舞台で華々しく描かれた歴史があったりして、見るぶんには、はるかに満足度は高いんですけど、リュブリャーナは、そういう価値基準とは違った意味で、旅行にはいいところだと思います。なんていうか、こぢんまりとアットホームなんですよ。たとえれば、秘境の温泉宿みたいな。あまり有名ではないし、何があるというわけでもないけれど、自然とくつろげる感じ。さりげなく、いいんですよね。

土曜ということで、だいたいお昼くらいに市も終わり、そのへんの商店も、一時を回れば次々とお休みに。開いているのはカフェと教会ぐらい?
不安定だったお天気も、なんとか持ち直し、また晴れて暖かくなってきました。
まあ、夕方まではぶらぶらと観光したわけですが、環境的には申し分ないものの、私自身の体調が悪くなってきたんですよね。昨夜から喉が痛かったので、持参したうがい薬やトローチで誤魔化していたんですが、どうも本格的に風邪をひいたみたい。きっと、イタリアからここまで乗ってきた列車のクーラーが効きすぎて寒かったせいです。脂肪層の厚い夫はへっちゃらだったんだけど。暑くてもへたってしまうし、寒けりゃ寒いで風邪ひくし、体力がない私は、これだから辛いです。
明日はザグレブへの移動日。また列車で三時間ほどなんですが、ザグレブで一泊したあと、翌日の昼すぎに飛行機でローマへ戻るというプランですから、なんとしてもザグレブへは行かなきゃいけない。
初めはWEBで調べてきた通り、朝早く8時台の列車で、と思っていたけれど、どうも私の体調が悪くなってきたので、もっとゆっくり行くことに変更しました。といっても、ザグレブまでは一時間に何本でてるとか、そんな話じゃないんですよね。一日に何本、という感じなので、時刻表を見ないと明日の予定が立てられません。そこで、ホテルのフロントで訊ねてみたけれど、ここではわからないので駅まで行って訊けと言われました。うそ〜〜、そんなぁ。列車の時刻表も置いてないなんて。パソコンでだって調べられるでしょうに。リュブリャーナの街もこのホテル自体もすごく良かったけれど、このフロント係の男だけは、最後まで愛想悪かったですね。

駅まで歩いてもいいけれど、市内からは逆方向だから面倒。あーあ、とため息ついていたら、リュブリャーナにはもっと大きな五つ星の高級ホテルがあることを思い出しました。街に出ているとき、その豪奢なフロントが見えてきたんです。
「そうそう。ここで列車の時刻表を訊いてみたら?」
こんな大きなホテルだったら、私、それくらいのサービスはしてると思ったんですよね。
「でも・・・」とためらう夫。プッ。この人、豪華なロビーの雰囲気とかに弱くて、なんか、「僕みたいな貧乏人がいてもいいところなのかなぁ?」って不安になるみたいなんですよね。「泊まり客ならいざ知らず、ただの通りすがりなのに・・・」って。
馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。なーにを遠慮があるものですか。ホテルのロビーなんて、なかば公共のものじゃない。それに、こんな大きなホテルでは、こっちが泊まり客かどうかなんて、いちいち誰もが把握してるわけないでしょ。
もじもじ尻込みする夫にかわって、私がフロントのきれいなお嬢さんに訊ねることに。
そうしたら、ここでも時刻表なんか置いてないみたい。でも、調べてみます、とにこやかに言って、すぐ駅に電話をかけてくれました。うん、さすが五つ星。やっぱり、こーゆーところが違う。
調べてもらって検討した結果、ザグレブへは午後二時二十分の列車で行くことにしました。
ホテルのチェックアウトは十二時だから、しんどければ寝ていられるし、体力があればもう少し観光もできるし。そのぶんザグレブを観光する時間がなくなっちゃうけれど、なんか、私たち二人とも、リュブリャーナが気に入ってしまったんですよね。
ほんと、お勧めですよ。小さな町なので、アクティヴにいろいろ見て回りたい気分のときは、ちょっと飽きちゃうかもしれませんが、もしまた訪れる機会があれば、もっと長逗留してみたいです。