スーパーでショッピング

ゆうべ、夫がイタリアから帰ってきました。
会議場は、ナポリからまだ南にあるリゾートホテルだったんですね。向こうは暖かくて、昼休みにはランチの後、みんな水着に着替え、ホテルのプライベートビーチで泳いだりしてたそうです。
・・・ヨーロッパの人たちって、優雅っていうかなんというか。仕事ちゃうん?
いや、昼休みが長いんですよ、正午に終わったら、こんど始まるのは午後四時とか・・・その間、ゆっくりランチを楽しんで、ビーチで遊んで気分転換して、さぁそろそろ物理やろかーって感じですよ。ほんと、4つ星ホテルで四泊なんて信じられない。夫だけそんな良い目をしてたなんて。私はそのころ、えらい雨風でこのゲストハウスになかば閉じ込められてたっていうのに。それで、「疲れて帰ってきてるんやから、もっと労わってくれや」もなにもないと思いません?あんたがパーティでたらふくご馳走食べてた頃、私はここで一人、ハムとチーズのつめたいサンドイッチかじってたんやって。わかってんのか?

今日は久々に天気は回復したように見えますが、気温は低く、昼でも12℃ぐらい。さむ〜。
それでも、また明日どうなるかわからないので、買い物に出るチャンスです。
こっちで買い物というと、まず用意して行かなきゃいけないのがバッグ。洋服・靴などのショップなら、買った商品をたいていビニールか紙でできたバッグに入れてくれますが、スーパーではそういうサービスはありません。各スーパーごとにビニールとか布製のバッグを売ってます。一番初めは知らなかったので私はそれを買いましたが、たいていみなさんマイバッグを用意してきています。私も今や、自分のバッグにビニールバッグを折りたたんで入れておくのが癖になりました。カゴをもってきている人もいます。いや、それが藤で編んだ古式ゆかしいバスケットなんかだと、もうお洒落でやってるのか、長持ちするからなのか、何なのかわかりません。日本のスーパーであんなサザエさんでも持たないような「買い物かご」を持っている人がいたら、たぶん驚くと思いますが。

スーパー自体はアメリカのと似てます。ほとんど同じ。カートの大きさも、似たようなもの。つまり、私が一人入れるぐらい大きいです。こちらでは、たまに、カートとカートをチェーンでつないでいるスーパーがあって、よく見ると、カートに1ユーロか50セント玉の差し込み口があります。そこにコインを入れるとチェーンがはずれてカートが使える仕組みになってるんです。
「ええっ!カート使うだけで金取るんかぃ!」
と、(私のように)逆上する必要はありません。このお金は、またカートを戻してチェーンをつなぐと戻ってきます。
なんでこんなことするのかなぁ、アメリカならカートを家まで持って帰ったりする輩もいて、マナー悪かったけど、ここでは誰もそんなことしそうにないのに、と思ってましたが、あれは、カートを常に所定の場所に置いておくためじゃないかと。使った後、カートをそのへんに置いて出て行ってしまう人もいるからなんじゃないかと思いました。なるほど、ああいう仕組みなら、カートがあちこちに散らばることはないですから。

さて、カートを押して商品を選んで、レジへ向かうとそこはベルトコンベアです。コンベアのうえに自分の選んだ品をどんどん載せます。前後の人とごっちゃにならないように、プラスチックの仕切り棒が置いてあります。で、レジの番が回ってくると、お互いに挨拶。
「グーテンターク」
これもアメリカと同じ。レジの人が一方的にニコニコ「いらっしゃいませ」と言うだけで自分は無言のまま、という日本とは違うので、初め、アメリカでいきなり「How are you?」と言われたときは、「ハァ?」と思いました。まあ、そう聞かれたときはたいていどんな教科書でも「Fine, thank you」と返すことになっているのでそう言いましたが、買い物に行くとき、いつでも機嫌がいいわけじゃないし、風邪ひいてしんどいときもありますよね。心の中で、ぜんぜんFineじゃないのになぁ、とか思いながら何度同じやりとりをしたか。べつに深く考えなくていいんだと思いますが、なんかちょっと馴染めませんでした。でも、「グーテンターク」(こんにちは)なら、そういう心理的負担(?)がなくてよかったです。

で、レジの支払いが済むと、またお互いに挨拶。
「ビーターゼン」「チュース」などと言い合います。で、終了なんだけど、それまでの間、ぼーっとしてられないんですよ、実は。
コンベアで流れてきてピッピッと精算されていく自分の品物をまたカートに戻さなきゃいけない。あるいは、持ってきたバッグに入れるか。そうしないと、のんびり支払ってたら後ろの人と商品がごっちゃになっちゃう。バッグに入れていくのが二度手間でなくていいんですが、はっきりいって至難の業。だって、レジの人がピッと流すほうが絶対に速いんですもん。重いものは下に入れて、割れやすい卵は一番上に・・・とかやってると、もう無理ですね。普通、いったんカートに入れて、またそれを持ってきたバッグに詰めるんです。
なんか、こっちではそのための場所が広く取ってないので、カートを押して出口に向かいつつ、そのなかに頭を突っ込んでバッグに商品を詰め込んでるのは、客観的に見てかなり笑えるかも。

今日もそうやって買い物してたら、あまり行きつけでない店だったのでよーく眺め回してると、アイスクリームのコーナーにあのハーゲンダッツを発見!!
いやー、あったのね、こんな田舎にも。で、どこでもパイント売りなのねー。他のアイスは弁当箱か丸いタッパーみたいな箱に入ってるのに。
手に持ってズッシリ。おお、この重み、これこれ。お値段は、と見れば・・・ハァ?!
なんで5ユーロちかくもすんねん!
量的にはメベンピックの半分やのに、こっちのほうが値段ずっと高いやん!
私の手からフリーザーへと転げ落ちるハーゲンダッツ。
・・・やめとこ。これやったら、日本のスーパーでよくやってる三割引セールとかで買ったほうがマシやん。

カフェとコンサートを征服

明日、このゲストハウスを引き払ってケルンで二泊するつもりだったんですが、大幅に予定が狂ってしまいました。
出ていくのはあさってになり、それから電車に乗ってケルンで下車、半日ほど観光した後、またフランクフルトまで乗り、ドイツ最後の夜はフランクフルト中央駅近くのホテルに泊まることになりました。
ゲストハウス滞在が一日延びたのは、ちょっとなんでかわかりません。何かの行き違いか思い違いがあったんでしょう。そしてケルン滞在の件は、今思えば私たちが愚図すぎだったんだけど、何だかんだいって、まだケルンの宿をリザーブしてなかったんです。で、いまごろになっておもむろにネットなどでいろいろホテルをチェックしてみたら、ホテルリストのツインルームは見事にどこも満室だったんですね。値段もやけに高くなってたし、こんなにどこもかしこも満室になるなんて、何か催しがあるんでしょうか。とにかく、泊まれそうなところがないのでは仕方ありません。もともとケルンにそんな執着していたわけじゃなく、大聖堂とそのあたりをウロウロして4711本店でオーデコロンを買ったらそれでいいや、ぐらいに考えていたので、半日観光に変更しました。なんか、のんびりできなくなったのが残念ですが。

ユーリッヒでは週末に選挙があったみたいです。市長選かなにか?よく知りません。
でも、メインストリートや広場では、先の週末にも各候補の陣営がちょっとした街宣活動をやっていて、面白いのは、道行く人々に果物や花などと一緒にそれぞれのパンフやビラを手渡していたこと。ある陣営はリンゴ、ある陣営は青い小菊の苗、またある陣営は一本の赤バラといったふうです。人口が少ないからできるんでしょうか、日本の家の近所でこんなことやってたら、たちまち花もリンゴもなくなってしまうと思います。
私たちはやっぱり外国人とわかるので、誰も何も渡してくれません。でも、珍しいので見て歩き、この街で初めてカフェらしいカフェに入りました。なんかねー、ほんとに「喫茶店」なんです。メインストリートにあって、ちょっと照明を暗くしたクラシックな装飾の室内を、いつも横目でちらちら覗いては、通り過ぎていたんですよ。

買い物で足が疲れたなーとか、少し喉が渇いたなーとか思っても、私って一人で喫茶店に入るのを躊躇してしまうタイプなんです。日本でもそうなのに、ましてや外国ではよけいに。
いや、よっぽど必要に迫られたら入りますけどね、そう気軽に入って、コーヒー一杯たのんで雑誌ぱらぱら読んだり、ケーキセットを一人でぱくついたりできない。なんででしょうね。すっごく空いてる店なら気楽だけど、そこそこお洒落な店でちらほら人が入ってると、気が急いてしまってくつろげません。そうだなぁ、手帳を取り出して何か書き込むとか、そんなことしてると落ち着くかもしれませんが、私、あまり手帳なんて持ち歩いてないし。書き込むスケジュールもないし。んー、私にとって、喫茶店って「一人で入るもの」じゃないんです。妙かもしれませんが。
ということで、夫が休みになったら行こうかなぁと思ってたわけです。
店に入ると、レジの前にはケーキを並べたショーケースがあって、奥へ進むといかにもヨーロッパって感じのデコラティヴな内装。ちっちゃくて安っぽいお城のなか、みたいな。
空いた店内の席を見回すと、どこにでも灰皿が置いてあります。禁煙席を探してたんですが、そんなものはありません。

カリフォルニアではカフェであろうとピザ屋であろうとどこでも禁煙だし、歩きタバコしてる人もいないし、個人のお宅でも灰皿ってものをみかける機会がなかったですし、タバコ吸っていいですか、と言おうもんなら「ハァ?」てな雰囲気がありました。日本でも禁煙席が多くなって分煙が進み、タバコの煙が嫌いな私は喜んでいたのですが、ここではまだまだ吸う人が多いようです。立派な葉巻やパイプを売っているお店があったり、平気で歩きタバコしてる人がいたり。
ともかく、私たちは窓から中庭が見える席に座りました。で、コーヒーと紅茶とケーキ一個を注文。ケーキはさっきのショーケースのなかにある数種類のケーキから、フルーツのいっぱいのったものを選びました。
全体的に値段は、安くもなく高くもなく、ですね。日本と同じくらいの感覚?
でも、こっちのケーキは大ぶりです。こぢんまりと整った感じじゃなく、皿のうえで、デンとしてます。味もしっかり。舌触りもそんなにふわふわしてないです。
私にしてみれば、味とかあんまり期待してません。
だって、日本のケーキ屋さんで買うほうがずっと美味しいに決まってるもの。繊細で、甘すぎず、日本人好み。それは前にウィーンで本場のザッハトルテを食べたときから、そう思ってます。じゃあなぜ、わざわざ?
「カフェに入ったぞ!」という、達成感というか征服欲というか、それを満たすためですね(~_~;)

その夜、歩いていける古城跡の教会で、小さな音楽会がありました。
チェロとピアノとバイオリンの三人だけのトリオによる室内楽コンサートで、12ユーロ。
夫が行きたいと言うので、当日券を当てにして行きました。けっこう人が(ジーサンバーサンばかり)来ていて、座れないかと思いましたが、運良く席がありました。
プラハでも思いましたが、教会というのは音響効果がいいから、こういうことが日常的にできていいですね。お寺でコンサートって・・・ちょっと無理でしょ。
ほんとにこの街らしいささやかなコンサートですが、なかなか雰囲気が良かったですよ。休憩時間には、隣接する部屋でシャンパンとオレンジジュースを売ってたりしてね。街の人たちの社交場に早変わり。
私の知らない曲ばかりだし、そもそもクラシックなんて日常的に聴きこんでないし、ちょっと眠くなったりもしましたが(夫も同様)、いい夕べでした。

そういえば、私たちの他に一人できているアジア人男性がいて、チラチラ見てたんです。
「あれは日本人?中国人?韓国人?研究所関係の人かなぁ」
とか言い合ってたんですが、休憩時間に夫と、
「お前、話しかけてみろ」
「なんでいきなり私が」
「お前、そういうの得意やろ、やってみろ」
「研究所の人だったらあんたのほうが・・・」
「いやお前のほうがいいって」
という押し問答の末、私がへらへらと近寄っていき、
「あのぅ・・・日本人ですか?」
と日本語で訊ねると、
「いいえ、私は韓国人です」
と日本語で返されました(~_~;)
ははは。よく間違えられることがあるんでしょうね。それに、やっぱり研究所関係の人でした。まだ若く(三十代?)すらりと痩せて、黒いジャケットと銀縁メガネがよくお似合い。髪型も顔もなかなかイケてるし、すごいインテリっぽい人です。テレビ映えしそう。
彼もゲストハウスに滞在しているというので一緒に歩いて帰ったんですが、流暢な英語で「今日の演奏は良かったですね、わたしの好きな曲ばかりなんですよ。最初少し間違えましたが、後で盛り上がったのでそれは気にならないものになりましたね。ケルンで大金はたいて聴いたのよりも、ずっと良かったです」
とかおっしゃるんですよ。

部屋に帰ってきて、夫、
「お前、ああいうの、好みやろ?」
「ああ、好みやねー。あれぞ真性インテリのエリート、知性の香りが漂ってたわぁ♪」
「けっ。よっしゃ、ワシもクラシック通になろかな」
「無理無理。あんたなんか、アニメの声優のCDもってへんかっただけでもマシや」
「なんやねん、それ」
「いや、結婚するまえに友達と言ってたんやもん、『物理の研究してる人ぉ?なにそれ、アニメおたくで声優のCDとか持ってたりして(ギャハハハ』って。まだジャズのCDでよかった。何もわかってなくても、ジャズ好きとか言ってたら、なんか玄人好みっていうか、誤魔化せるやん。もー、あんたはその路線でいき」
ぷぷっ。
このあと、ふてくされた夫としょーもないやりとりがありましたが、忘れました。
でも、正直、あの韓国のインテリ君は素敵だったけど、クラシックコンサートに連れて行かれては薀蓄を聞かされてたら、最初は気合入れれても、いつか寝そう・・・
「きみ、第三楽章の途中で口開けて寝てたよね」
とか言われて、ジ・エンドになりそう。
やっぱり、一緒になってうとうとしてたこの夫のほうが私には合ってるってこと?
なーんか・・・納得いかんわぁ。
いいや、ここで納得したらいかんねん。うん。
まっ、とにかく教会でのコンサートも征服した、と。

帰途〜ケルン

さて、わずか一ヶ月のユーリッヒ滞在も終わりに近づき、寝室の片隅にしまっていたスーツケースをまた取り出して、荷物の詰め込み作業に入りました。
なぜか、旅に出るときとか夫の出張のときは、服や細々した日用品、常備薬などを手際よくパッキングするのは私の役目なんです。夫に手出しさせてたら、この限られた空間を最大限に効率よく利用することはできません。大事な飛行機や電車のチケットも、夫が持っていたらなくす確率が高いので私が持ちます。代わりに夫はパソコンやケーブルなど機械モノの管理を担当します。
部屋は私たちがもと来たときのように、ガランとしていきます。
キッチンで余ってしまった調味料やビニールラップの類、封をきってない食品などは、他の階に住んでる日本人の男の子にあげて(押し付けて?)しまいました。

29日の朝、早めに朝食をすませると、フロントでチェックアウトをして、ゲストハウスのすぐ裏手にある小さな無人駅から一時間に一本しかでてない私鉄で、まずはデューレンまで行き、ケルン行きの急行に乗り換えです。
この乗り換えの時間がすごい短いんですよ。だから、必死で切符を買わなきゃいけない。たぶん、前もってどこかで切符を買えるようになってるんだと思いますけどね。切符を買うと、その横にある機械で、車掌が来たとき見せられるように、日付のスタンプを押すんです。日本みたいに、日付が入ってませんから、いつでも使えるんでしょうね。車掌がチェックしなければ、何度でも使えるかも。だから、自分で日付のスタンプを押すことになってるんです。
しかし、ドイツの物価はけっこう安いと思ってましたが、本とか乗り物の運賃は高いですね。あのバスみたいな私鉄だって、ゆっくり走ってほんの二十分ぐらいしか乗らないのに、往復すれば日本円で千円ぐらいですよ。あれは高いなぁと思いました。

さて、ケルンですが。
ちょっとお天気が不安定で、肌寒く、雨が降ったりもしましたが、計画していたところはまわることができました。ホームで電車から降りると、荷物を預ける機械があるんです。まるで地下にある立体駐車場みたいな仕組みになってるんだと思いますが、うまいことできてます。預け賃3ユーロ。スーツケースと大きなバックパック二つ預けたら6ユーロ。うん、まあ、もって歩く不便と労力を考えたら安いものじゃないですか。
で、駅から出ると、そこにはドドンと大聖堂。
ここも修復中の個所があって、完全な姿というのは見られませんでしたけどね。ドイツで一番大きいとか。それでもって世界遺産のひとつ。
・・・んー。まあ、こんなもんって感じですよ。いや、大聖堂見るのは初めて、とかだと、
「わー、大きーい!すごーい!きれーい!」
と叫ぶと思いますが、私としては正直、ミラノの大聖堂、フランスのノートルダム寺院、アミアンの大聖堂などのほうが良かったかなーと。
内部も、こんなもんですねって感じ。
それより、大聖堂まえの広場で法輪功の人が黄色い幟を立てて宣伝してたのにはたまげましたよ。ワシントンDCでも見たけど、ここにもいたか。うーむ、法輪功おそるべし。よりにもよって大聖堂のまえで、やるか?
ま、私は「あー、これがケルンの大聖堂ね。見た見た」とまた征服気分を満たして、ちょっと小腹が空いたのと寒かったのでカフェを探して入りました。大衆的なカフェですけど、やっぱり値段的には日本並。

そこを出ると、歩いて4711本店に向かいました。ケルンのいいところは、観光スポットが駅周辺に集中してるので乗り物を使う必要がないこと。
4711(フォーセブンイレブン)は、「4711」、「オーデコロン」で検索をかけていただければ、たくさん出てくると思いますが、かのナポレオンがこの地を征服したとき、こよなく愛したという逸品。オーデコロンというのは、フランス語で「ケルンの水」という意味です。昔は香水というのはお洒落でまとうというより、一種の気付け薬であったり、一瞬嗅いで気分をリフレッシュしたりするものだったのですね。
4711という名前ですが、ナポレオンが街の区画整理をしたときのこの香水屋の番地なんですね。その数字がそのまま屋号になってるんです。そう、ここは「オーデコロン発祥の地」というわけ。香りモノ好きの私がここに来ないはずありませんよ。
日本でもこの4711はロングセラー商品となっていて、主にメンズとして売られていたりしますが、もともとメンズもレディースもありません。柑橘系に花の香りが少し混じったような爽快な香りは、一般的に言って万人受けするものですし、香り自体、一時間もするとすぐに飛んでしまうので、ほんとうにリフレッシュウォーターですね。

ここにはきっと日本人観光客がうようよいるんじゃないか?
そう予想していた私は、実際に行ってみて、拍子抜けしました。だって・・・誰もいないんですもの。観光客どころか、誰も。えっと・・・ここ、本店ですよ?
私たちは、何度も地図を確かめましたけど、やっぱりここであってる。
なんで誰もいないのーっっ!入りづらいじゃない。
まあ、結局は入るんですけどね。でも、私が勝手に思い浮かべていたより、ずっと小ぢんまりした感じでした。なんか、4711のライン以外に他の会社の香水なんかも商品棚に並べてたりして。この中途半端な姿勢はどうなのよ?って感じでした。老舗なら老舗らしく、自社商品だけで勝負して欲しいもんです。日本で買うと割と高いくせに、ここでなら、商品によっては半額プライス。お土産にと少し買いました。

そこから私たちが次に向かったところはヴァルラーフ・リヒャルツ博物館。
いや、ここはそんなに期待してなかったんですけど、結果的には一番よかったですね。お勧め花マル印です。
一階で大きな荷物などは預けて、二階から四階まで見て回るんですが、初めは中世のキリスト磔刑図ばかりです。延々と、手を変え品を変え作者を変え、モチーフはほとんどそれ。まー、最初のフロアですから熱心に見てるんですけど、だんだん・・・
「ええ加減にしてくれよ!ほんまに、残酷で野蛮で血なまぐさい宗教やな!」
って感じになってきます。
ところが、血と茨と十字架に辟易しながら上の階に上っていくと、そこにはモネやルーベンス、セザンヌ、ムンク、ゴッホなど、私たちの見慣れた世界が広がっています。いやぁ〜、最初の陰気で強迫観念的な雰囲気がガラリと変わって、もう歌いだしたいような気分ですよ。
私個人にとっては、クラナッハの絵があったのが嬉しかったです。ほっそりした肢体、ちょっとあごが尖り目の吊り上った、独特の妖しい女性を描く人なんですけど。近代画家クロード・ベルランドが、その作風を取り入れてますよね。

まあ、見て回ったのはこれだけで、あとはお昼を食べてメインストリートを歩いたぐらいです。とにかくユーリッヒとちがって、都会。人が多くて、雑多な感じ。大きな電気屋さんの看板には、ドイツ語と一緒に英語やハングル、中国語も書いてある。日本人も多いだろうに、なんで日本語は書かないんだろうと思ったら、夫いわく、
「日本人がこんなとこで電化製品なんか買わんからや」
とのこと。確かにねー。

フランクフルト〜帰国

ケルンを出たのはもう五時前くらいでした。
フランクフルトまで、ICEで一時間十五分。途中、寝てましたから、車窓の風景はあまり覚えてません。
フランクフルト中央駅につくと、荷物をガラゴロと転がしながら、ホテルへ急ぎました。
このホテル、夫がネットでリザーブしてくれたんですが、ユーリッヒのA君が「ここで探すと安く泊まれるところが見つかる」というアドバイスをしてくれたおかげで、なるほど駅から歩いて七分ぐらいで、ツインが70ユーロ台というと確かに安い。
でも、安宿はやっぱり安宿。
狭いし、シャワーカーテンもないし、なんといっても笑えたのが洗面台。だって、トイレの中にある手洗いみたいな小ささ。これで水をそとに飛ばさずに顔を洗えってほうが無理というしろもの。
まあいいわ、一泊だから。という割り切りが必要でした、私には。
それまで広くて快適なゲストハウス住まいだったので、余計にギャップが大きかったのでしょうけれど、それにしても、身体の小さな私でさえこう思うんだから、ほとんど2mちかくあるようなA君や、デブ系アメリカ人が旅行するときは、一体どうしているのか、ほんとうに謎です。ベッドから足はみだしたり、シャワー室に入れなかったり、ということは当たり前の不便として、慣れっこになっているのでしょうか。ほんとにリッチで、お金を出せる余裕がないと、そういう人には旅行って苦痛なことなのかも。飛行機だってあのエコノミーシートじゃね。

さて、もう日は暮れて、何か食べに行こうかと外に出たら、インド料理店の看板が目を引いたのですが、外に貼ってあるメニューを見ると、けっこう高い。っていうか、誰もお客さん入ってないし。夫と、不味いのかなぁ、などと言い合いながら、隣の中華料理店を見れば、店内も明るく、客もよく入ってる。メニューを見ても、そこそこ安い。
海外では困ったときの中華頼み。まぁ、当たり外れが少ないですよね。どうしようかとメニューをにらみながら道端に立っていると、中からニコニコと愛想のいいおねーさんが出てきて、英語で、
「お客さんたち、日本人でしょ、英語のメニューもありますよ、さぁ、入って入って!」
えらい積極的な接客。
ついつい後に引けなくなって、まあいいかと入ってしまいました。

その小さな店にはもうひとりウェイトレスさんがいたんだけど、さっきのおねーさんがどうもここを仕切っているようで、あっちこっちのテーブルに声をかけては馴染みのお客に愛嬌を振りまく。それが嫌味じゃなくて、なかなかの「やり手」という感じなんです。正直、料理の味自体は悪くないものの普通だから、この値段設定とこの看板娘(というにはトウがたってるけど)おねーさんで繁盛してるんだろうなぁって感じ。ほんと、見ていて気持ちのいい働き者って感じです。
私たちのテーブルのすぐ隣の、中国人と思われる客たちと話をしているとき、彼女も何か中国語で喋っていたんですが、その発音から、「北京とか北方の人じゃないな、上海、広東あたり?」と思われたので、私たちがお勘定をするときに中国語で訊いてみたんですよ。またしても意外なところで役立つ中国語。
「おねえさん、お勘定」
「(くるっと振り向き驚いた顔で)あれ?日本人じゃ?」
「日本人ですよ」
「いやー、じゃあなんでそんな中国語が喋れるの」
「習ってたんで。あなた、北京の人じゃなくて、南方から来た人でしょう?是をシーじゃなくてスーと発音したもの(これが上海人などの特徴です)」
「あー、わたしはマレーシアから来たの」
「へぇー、マレーシアから?」
「そうなのよ〜。マレーシアの華僑なの」
ということで、彼女はマレーシアの人でした。
「また来てね〜」
と愛想よく送り出してくれた彼女に会うことはもうないけれど、異国で英語・ドイツ語をペラペラ操りながら、明るく頑張っている彼女には脱帽です。ドイツ人は誠実に仕事をするけれど、今まで見た限り、ああいう愛想の良さってのはないものね。まあ、人種というより彼女自身の性格なんでしょうけど。
どこででも、自分を活かして明るく生きていける人はいるんだなぁ、と思うと同時に、三ヶ国語で自由自在に仕事ができるようになるまで、きっとそれなりの苦労とか難しさがあったんだろうなぁと想像できます。まぁ、ちらっと会っただけの人なんだけど、感心してしまいました。

ホテルまで帰らず、また駅の地下に戻り、まだ開いているスーパーでハーフボトルのワインとチョコレートを買いました。いや、あんな安宿にもかかわらず、ワイングラスが置いてあるんで、部屋で呑んでもいいかなぁと。
すっかり夜になった駅前の大通り、ホテルまで歩いていると、あちこちに怪しげな店が。
薄暗い店内が、まるでカジノみたいだったり、ショーウィンドウの裸の女のマネキンにちょっと見るのも恥ずかしいようなコスチュームが着せてあったり。明らかに、なんか「違った」雰囲気。
「なんなの、これ?」
どこの裏通りに迷い込んだのかって不安になりますが、駅から続くれっきとした広い表通り。
夫は面白がって見てましたが、私は「このへんって、もしかしてすごく危険な場所だったりして」と思いましたよ。でも、普通っぽい女の人も平気で歩いてるし、緊張感はない・・・

あとで夫に聞いたんですが、ドイツでは売春は合法で、いわゆる「飾り窓」のある街もあるんですってね。へー、知らなかった。アムステルダムにそういうところがあるのは知っていたけれど、ドイツでねぇ・・・へぇ〜。
だけど、あんな表通りにそんなあからさまな店を作らなくてもいいじゃないですか。これまでフランクフルトには降りて歩いたことがなくて、空港や駅でトランジットするだけだったからわからなかったけれど、ほんと、わからなくてよかったです。
なんか、街が薄汚くみえるんだもの。
幼稚園がたくさんあって、秋の日差しのなかを母親たちが乳母車を押して歩き、子供たちが公園で遊んでいる健全なユーリッヒとはえらい違い。
勤勉・実直・誠実そうなイメージをもつゲルマン男性もやはりこういう風俗好き・・・?
いやー、フランクフルトで一気に幻滅しました。
こんなもん、裏通りに隠せよって言いたくなりますね。隠れてコソコソやるからまだ情緒がある・・・っていうのは私の感じ方にすぎないけれど、少なくとも、自分の住んでる街の表玄関に位置するところに複数のポルノショップなんかが堂々と存在していたら、私なら嫌だなぁ。

今回のドイツ滞在、ケルンとフランクフルトは、「見た」というほど見てませんが、それらの都会より、ド田舎のユーリッヒ滞在でよかったと思います。ツアーや旅行なんかじゃ、なかなか行けないですよね。
何かと不便だったり、飽きがきたりするけれど、それこそがその土地のもつ個性なんじゃないかなあと。なんでも手に入る、どんな人種でもいる、雑多な都会って、異国民には暮らしやすいけれど、社会の個性を消していくような気がしますね、良くも悪くも。かろうじて千年二千年とそこに在りつづける建物が、街の個性の輪郭をかたちづくっている。でも、その中身たる人間はもう変わってしまった。
たとえば、ユーリッヒの人々の金髪碧眼率は高いなぁと思いましたが、ケルンやフランクフルトに来ると、そうでもない。アジア人だからってじろじろ見られることもないけど、こっちが「へえ」と驚くような現象もあまりない。人間社会に関しては。気楽なんだけど、まあ、ユーリッヒのような多少閉鎖的なところのほうが、「異国体験」をできたという実感があったと思います。何年も暮らすとなると、ちょっと別ですけどね。
また機会があれば、滞在してみたいですね。なんか、本宅じゃなくて別荘みたいな感覚で行くと、私にはちょうどいいんじゃないかと思います。


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