ユーリッヒ

ユーリッヒという街はどこにあるかと言うとですね、えー、まずドイツのなかで西に位置するケルンは有名な観光地ですから、すぐ見つかりますよね、で、そのさらに西には国境近くのアーヘンという街があるでしょ。
その二都市のちょうど真ん中あたりがデューレンですが、デューレンからわずかに北です、ユーリッヒは。
フランクフルトの清潔で広い駅からカッコいいInterCityExpressに乗って約一時間、ケルンでRegionalExpressに乗り換えてデューレンまで約三十分、それから車掌さんがいる路面電車かバスみたいな私鉄に乗って十五分ほどで着きます。着いたところにはほんとに何にもありません。「ハァ?ここ、どこ?」っていうほど何にもなし。線路わきに駐車場があって、そこで今回、私たちをお世話してくれるドイツ人若手研究者のA君が待っててくれました。
まー、電車のレベルが三段階で下がっていきますが、どれをとっても外見、内装、設備ともに、去年イタリアで乗った電車よりは百倍マシって感じですかね。ううーん、さすがドイツ。でも、やっぱり時刻表通りには発着しないのです。二、三分のズレがある。いやー、ドイツですらこうなのだから、きっちり時刻表通りに運行している日本の鉄道って、かなりすごいのではないかと思いました。

前述のA君から市街地図を貸してもらっていたのですが、町外れに研究所がデンとある以外は、ほんとうに手のひらサイズって感じの街ですね。
ローレンス研のあるカリフォルニアのリバモアでもそうでしたが、核などを扱っている研究所は、どこの国でも、たいてい辺鄙な場所にあるもののようです。「都会の喧騒から隔絶された暮らし」というのは、その分野の研究者たち(及びその家族)に課せられた宿命なんでしょうか(いや、夫の研究はそういう分野ではないのですが)。あとでこの街を通る唯一の私鉄(といっても路面電車なみ)の時刻表を見てみたら、一時間に一本しか走ってない。しかも終電は22:49ですよ。
もー、どんなド田舎やねんって感じでしょ。

まあ、不便ななかにも、ありがたいことはあります。私たちの宿泊しているゲストハウスは、研究所内でなく、車で15分ほど離れた街なかにあって、すぐ隣には食品類は一通り揃っているスーパーとベーカリーがありますし、正面の道をまっすぐ十分も歩かないうちに、カフェやドラッグストアやショッピングモールのあるメインストリートに出られますから、私自身の生活に不便はありません。
なんといっても、夫は朝から晩まで研究所で仕事して、昼はそこのカフェテリアで食べればいいのですが、主婦の私は自分の昼食プラス、二人分の朝・夕の食事を用意しなきゃいけないので、食材を買うのに苦労するような場所にゲストハウスがあるのではないかということが、一番の心配事だったんですよ。
で、あらかじめ前述のA君に、そのあたりの事情を訊いておいたんです。何も心配ないということで、ひとまず安心していたんですが、実際に来てみて、思ったよりも好条件だったので嬉しかったです。

メインストリートでは衣服から化粧品、CDや文具に猫の缶詰まで、それこそ何でも売ってます。少ないですがレストランも銀行もあるし、道の片側は青々と芝生がはられ、樹木や花壇も整えられ、こぎれいな公園になっているので、買い物に疲れたらそこのベンチで足を休めることもできます。
メインストリートのつきあたりはマルクトと呼ばれる小さな広場になっていて、そこから放射状に小道が伸びています。そのあたりにもいろいろお店がありそうですが、まだ探索してません。ここに住んでいる間に、また歩いてみようと思います。

アーヘン

ドイツとベルギー、オランダの三国の国境となっている町です。
このまえの日曜日、ここに住んでいらっしゃる研究者の方がわざわざユーリッヒのゲストハウスまで迎えに来てくださって、有名な大聖堂(世界遺産のひとつ)やその他を観光したあと、自宅で夕御飯までよばれて、また送っていただきました。
車でアーヘンまでは、アウトバーンに出て時速150kmで走ると三十分足らずです。ちなみに、アウトバーンはフリーウェイなんですが、安全のために時速130kmを推奨されているそうです。
ユーリッヒからデューレンまでトロトロと電車で十五分ほど行って、アーヘン行きの快速に乗ってもだいたい三十分ぐらいで着くと思います。
中央駅にはブリュッセルやパリ行きの電車も乗り入れていて、けっこう便利そうなところです。

アーヘンはユーリッヒよりもずっとずっと広い町で、巨大な総合大学(理工系)があり、そのキャンパスとドミトリーの大きさには驚かされます。
三つの国境が重なる地点は小高い丘になっていて、公園のなかに展望台のついた塔が立ち、ちょっとした観光スポットになっています。高いところの好きな夫とともに、案内してくださったB氏と三人で、エレベータに乗り込み、展望台にのぼりました。まあ、たいてい森や丘ばかりで何が見えるというわけではないのですが、それぞれの国が眼前に広がっています。
昔は国境をあらわすもの、何かあったのかもしれませんが、今はどちらの国でもイケイケで、パスポートとか持たなくても、街は地続きだし、普通に道を走っていて、「はい、ここから先はオランダね。はい、ここからまたドイツです」って感じです。もちろん、外国人である私たちも同じ。で、言葉はどうかというと、もちろん違うことは違うのですが、このあたりではドイツ語に似たオランダ語だということで、言葉も土地によってだんだんに変化していくもののようです。

しかし、ここで見るべき観光スポットのナンバーワンは由緒ある大聖堂なんですよね。そのたぐいのものはヨーロッパのどこにでもあるので、特別にキリスト文化に興味のない私には、正直もう食傷気味なのですが、アーヘンの大聖堂に関しては「カール大帝」「アーヘン」「大聖堂」で検索してくだされば、たぶんたくさん説明が出てくると思います。関心のある方は試してみてください。
それよりも面白かったのが、この日は広場に市が立っていて大勢の人で賑わい、たくさんのテントのなかでは、手作りの工芸品や靴、衣類、食器、などが売られていたことでした。私は、日曜にはいつもこんなふうなのかなと思ってましたが、その日は一年に一度の特別な市だったそうで、あちこちからプロの職人さんが集まっていたということなんです。素人のバザーみたいなのじゃなくて、けっこう値段も高かったのはそのせいでしょうね。ぐるっと見て回りましたが、なかなか楽しかったです。

さて、市内観光が終わると、素敵なレンガ造りのご自宅にお招きされました。
中に入るとまず玄関らしき場があり、キッチン、食堂、リビングが広い部屋で一体化しています。仕切りみたいなのはなかったですね。奥には庭があって、その手前のほうに木でできたテーブルだの椅子だのガーデンセットが置いてあります。私たちは、この季節だから外のほうが気持ちがいいだろうということで、そこに陣取りました。
奥様は日本人なので、まず、「疲れたでしょう〜」と出してくださったのは、「おしぼり」と「冷たい麦茶」です。
うわっ、これぞ典型的な日本人的おもてなしー。いや、その麦茶の美味しかったこと。
ドイツ人のB氏も日本にいたことがあり、そもそも日本で知り合って結婚されたので、日本語はけっこうできるし、すっかりリラックスしてしまいました。ちなみに、麦茶はドイツ語でも「ムギチャ」です(^^)
すぐ、アップルパイにアイスクリームを添えたお皿が出てきたのですが、私にはこれだけでお腹いっぱいになりそうな量。まだ夕食まえなのに、こんなスィーツをどっさり食べていていいのか?
でも、お子さん(完全にバイリンガル)も食べているし、B氏にいたってはパイをおかわりしているし・・・

それからひとしきり話に花が咲きました。
私はドイツの暮らしについて訊いてみたいことがたくさんあったし、奥様も話し好きらしくて、あっちこっち話題が飛びましたが、とても面白かったです。
また、この話の内容はおいおい書きますが、いやぁ、ドイツ人の暮らしって、摩訶不思議!
暗くなってきたので室内に入り、もう失礼しようかと言っていたのですが、結局、ご馳走になって帰ることに。
この献立が、炊き込み御飯と味噌汁と野菜や豆腐の煮物、チキンの照り焼きにお漬物というメニューで、完全日本食。もちろん、お箸に箸置きまであり、フィニッシュは緑茶です。
こっちにきてからまだ一週間ですが、やはり和食は美味しい!!
なんだかんだいっても、日本人なら御飯におかずですよねー。奥様の気遣いが嬉しかったです。残念ながら、それでなくても小食の私は、そのまえにパイやアイスを食べたせいもあって、あまり食べられませんでしたが・・・

その前の土曜日に、ユーリッヒにもあるチャイニーズレストランでテイクアウトしたのですが、あんなぱさぱさの白御飯でも、こうなってみると美味しいねと言い合っていたとこなんですよ。
いや、こっちでもお米売ってるんです、タイ米みたいなのと、日本米みたいなのと。なんか、300gぐらいずつ売ってます。こっちでは、お米というのはお菓子の材料だったり、メインディッシュのつけあわせという扱いで、主食ではないですから。主食はパンとジャガイモ。このジャガイモはほんと、買うのに往生します。だって、二十個ぐらいネットに入ってていくら、ですもん。
近所のスーパーで特売になっていましたが、1,5kgで約2ユーロ。これはまだ小さいほうで、ちょうど日本のお米の感覚で売ってますよ、ごろごろごろっとネットに入ったジャガイモが。あんなの、もって帰れないっての。
この国では、ジャガイモ三個、とかそういう買い方はできないのでした。他の野菜や果物は量り売りなのに。

ドイツ生活いろいろ

アーヘンでうかがった日本人奥様の話が興味深かったので、今回はそれをもとにドイツ人のリアリティを、ぼんやりとでもお伝えしようと思います。しかし、いくら彼女が頭の回る人でドイツ人夫との在独生活が十年以上あっても、住む場所や付き合う人々のクラスによっても印象は左右されますので、そこのところはリアリティといっても、ある程度の偏りがあるのはしかたないですよね。
生粋の日本人で日本に暮らしていても、東京の大学で物理学者をしている人と、大阪の小さな商店街でお好み焼き屋をしている人では、それぞれ日本人としてのリアリティは違うでしょ。同じことを訊いても、ぜんぜん別の答えが返ってきたりして。
そう考えると国民気質とか、何々人的とか、そういうのあまり意味ないじゃない、とも言えるし、実際、うちの夫なんかは個人主義だから、「無意味やないか」って、もう端から無視してる場合も多いですが、私は面白いと思うし、ごくごく大まかに言って、その国々によって人々の気質や暮らし方に、いろんな傾向があることは確かだと思いますよ。たとえば、前述の東京男性と大阪女性だって、家のなかでは同じように靴を脱ぐだろうし、運動会のお弁当といえばオニギリや卵焼きを思い浮かべるだろうし、今の日本の景気を問われれば「良くないんじゃない?」と答えるだろうし・・・
ま、要は気楽に読んでもらえたら、ということです。

話は窓ガラスから始まりました。
前に新婚旅行で東欧を回ったことがあったんですよね、で、ドレスデンやマイセンなど旧東ドイツを旅しているとき、ツアーコンダクターのお姉さんが言ったんですよ、
「ドイツの主婦はとてもきれい好きなので、いつも窓ガラスをピカピカに磨いています。白いレースのカフェカーテンと置物や花を飾って、外から美しく見えるようにしておくんですね。隣の家の窓が二、三日汚れていようものなら、『お隣さん、ご病気なのかしら』と心配してやってくるぐらいなんですよ」
ええ〜っ、マジ?と思いました。でも、確かにそう言われてみれば、そうです。ぐるりと見渡してみると、ほんとに窓ガラスはピカピカ。汚れたり曇ったりしている家はありません。
いやー、そのとき私は、ドイツに住むのだけは嫌だと思いました。
だって、何が嫌いって、家事の中では窓拭きが一番嫌いなんですよ、私。あれって、手の届かない部分なんかもあって、けっこう重労働なんです。せっかくやっても雨が降ればもう台無しだしね。
「ピカピカの窓はドイツ主婦の誇り」なんて言われちゃうと、素直に凄いなぁと。いやー、向こうの家は広いし窓もたくさんあるだろうに、それをいつも磨きたてているんだから、私とは違って、よっぽど体力があるんだと思いました。ドイツ人、デカイしね。腕力もあるんだろうって。
で、続けてこのツアコン嬢の言うには、ドイツのお家はキッチンも清潔でピカピカだと。
んー・・・きれい好きなんだなぁ。専業主婦じゃなくて仕事してたらどうするんだろう、そんなに掃除ばかりしてられないと思うけど、やっぱ体力の違いなのか・・・
などと考えてたんです。

実際にはどうなのか?訊いてみました。
ま、いくらか誇張されてるかもしれないけど、それは事実らしいです。ドイツ主婦は窓拭き命!
雨が少なく乾燥したドイツの気候のおかげか、一度磨けば三週間はもつということです。
それで、小窓などは白いカフェカーテンに置物でデコレイトというのがお決まりですが、テラスにつながる大きなガラス窓の外には、折りたたみ式の「雨戸」がついていて、夜はこれを閉めるので、カーテンがない家が多い、ということです。なるほどB氏のお宅にもカーテンがありませんでした。これはちょっとびっくりですね。窓にカーテンがないとは。
で、窓もキッチンもピカピカにしておくなんて、すごいですねと言えば、奥様いわく、
「いや、一般的に、こちらでは専業主婦が多いんですよ。で、掃除は熱心にするけれど、料理はしない。朝は簡単にシリアルかパンです。子供はみんなお昼までで学校から帰ってくるので(小学生以上でも)、ドイツでは昼食がメインになるんですよ。で、夜は何を食べるかと言うと、ほんとにシンプルなもの。たとえばパンにバターぬってチーズのっけて食べて、それで終わり。煮炊きしたものは食べないですね。野菜もあまり食べない。ここ二年ほど、それじゃ健康に良くないので、夜も火を通した野菜を食べましょう、とか言うようになりましたけどね、ほんとにこっちの人って日本人にくらべて料理をしないんですよ。だからキッチンもピカピカにしておけるし、昼からは暇なもんで、ガラス磨きに精を出すんでしょうね」
へぇ〜、と私はさらにツッコミ。
「いま、日本では専業主婦って叩かれてますし、アメリカなんかでも、ただダンナにくっついて生活してる主婦って、アイデンティティがないみたいな言われ方をするし、ドイツで専業主婦が多いってことは、ドイツ人って亭主関白なんですか?」
「いや、東西が一緒になるまでは、国自体が豊かだったんですよ、今はドイツ経済すごく落ち込んでますけどね、そのうえ旧東側を援助する税金を取られたりするし。でも、以前は一家で一人が働けば、十分豊かな暮らしが成り立ったんですね、だからまだ専業主婦が多いんだと思います。亭主関白ってことはないですよ、夫婦の価値観はそれぞれ大切にしてますね。妻の意見をないがしろにしたりはしません」
これは私の想像ですが、ヨーロッパってまだ階級の感覚が根強く残っていますよね、一家の主婦が働くということは勤勉の美徳とか自己実現の問題というより、たんに労働者階級である、ということなのかもしれません。主婦が「お金を稼いでくる働き手」であるよりも、庭の花壇を手入れしたり、銀の食器を磨いたり、クッションに刺繍をしたり、窓際を飾りたてたりしているほうが、「クラスの高い家庭」ということなのかもしれません。

しかし、晩御飯がパンとチーズだけってのはどうなんでしょう。それって、ハイジかネロの世界みたい。
やっぱりいろんな食事の習慣があるんですねぇ。そういえば、恋人同士がつきあっていても、案外わからないのがお互いの食習慣だったりしますよね。デートではレストランに行くけれど、普段、家で何をどんなふうに食べているのか、味付けの好みなど、お互いが実家住まいだと、わからないものです。結婚してからビックリするのはわりと普通のことですよ。
まあ、ドイツでは専業主婦が多いというのは意外でした。ドイツというと工業国で、教育制度も整っているし、人々は勤勉だと聞いていたし、女性も男性と対等に働いているイメージがあったんですね。
こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、けっこう保守的なのかなーと。
奥様も言ってらっしゃいましたが、
「ドイツ人は、新しいものに飛びついたり、海外のものや考え方や生き方に興味をもって、わざわざ実践してみたりはしない」と。
何かといえば「アメリカではこういうのが普通の考え方」「フランスで今、ウケてるのはこんなファッション」などと、好奇心をもって真似したがる日本人とは違うようです。

ファッションといえば、ドイツ人はあまりこだわらないというか、お洒落というより、こざっぱりとした地味な格好が一般的なようです。ドイツの服飾ブランドって・・・さっと思い浮かばないですもんねぇ。イタリアやフランス、イギリスだとズラズラ出てきますけど。
奥様いわく、
「こっちの服は色合わせやデザインがイマイチだったりするので、お洒落な人はフランスなどに買いに行ってますよ」
ということです。国境の町だとそういうことも容易にできるんですね。いや、お金も時間もかかると思いますが。
私が見た限り、こっちの服って日本人の体型に合わないし(手足が長すぎる)、ぺらっとしてるのが多いですね。それより何よりデザインが・・・いや、ユーリッヒがド田舎だという、それも原因だと思いますが。ベルリンの大きなデパートなんかだと、もっといろんなものがあると思うんですけど。どうなんでしょうかね。

プチ冒険

昨日は意を決してローカル線に乗り、一人でデューレンまで出てみました。
鈍行に二十分ほど乗るだけなんだから、べつに何ということもないはずなんですよね。でも、やっぱり言葉も乗り方もわかんないし、ちょっとの緊張が神経にこたえます。
身体や神経が頑丈でないことって、ほんとうに嫌ですねー。これまでの独身時代、両親には「今行かんと、いつ行けるかわからんから」と言って、海外や国内を旅行しておいてよかった。そんなに遊びまわってたわけじゃないですが、ホームステイとか留学(遊学?)もしておいてよかった。人間、生身の身体ですよ。いつ何があるかわからない。体重が46kgあって食欲旺盛で「やったるで!」という生気にあふれていた自分が、自律神経を病んで40kgを切り、ずっとずっと小食になって、何かしようと思っても無理ができなくなるとは、考えもしませんでしたから。やはり、やりたいことはやれるときにやっておくべきですね。

行動したい気持ちを、ひ弱な身体が押さえつけていて、その葛藤のなかにいると、けっこう悔しい思いもします。普通に元気な私だったら、毎日、朝から晩まで研究所で仕事をしている夫を尻目に「ちょっとベルギーのリエージュまで行ってくる」「今日はケルンまで行ってくる」と出かけているはず。日帰りも不可能じゃないんだし。朝出ると、さっとひとめぐり観光して、夜には帰ってくることができる距離ですよ。
あるいは、夫は19日から四泊五日、イタリアの学会に参加するのですが、そのあいだ、ここで一人さびしく留守番してないで、特急列車でブリュッセルかパリへでも行って二泊ぐらいして来てもいいじゃないですか。体力があればね。まあ、何かあったら困るので、お留守番ってことになると思いますけど。しかし、飛行機で十二時間もかかるんですよー、ヨーロッパまで。それ思えば、もったいないなぁ。航空運賃がもったいないというより、時間と体力がもったいない。ヨーロッパまで、せめて六時間ぐらいならなぁ。なんか、飛行機より快適で安全かつ高速の乗り物ができたらいいのにと切に思います。

デューレンに行ったのはいいけど、駅近くの広いお店(服とか寝具、靴、ちょっとした食器が安かった)でうろうろしてるうちに時間がたってしまい、町そのものは見てません。でも、地図も買って見たし、なんとなくの感じですが、ユーリッヒより広いし賑やかそうです。人口が多いので、やはりそれだけ黒人とか非白人率はユーリッヒより高い感じ。ただ、旅行者がみるべきもの、観光スポットなどは何もないと聞いています。
で、駅は・・・あんなもんなんでしょうかね?広いけれど簡素の一言。
それでも小さなスナックバーと書店が入ってるだけマシです。
ほんと、日本はどんな駅でもキオスクや自動販売機があっていいですよ。ちょっと喉かわいてエビアンの小さいボトルとか欲しくても、こっちだったら売ってるとこ見つけるまでに干からびそうですもんね。だから、私は小腹がすいたときのためにチョコレートか何か持ち歩くことにしてます。ペットボトルは重いので敬遠だけど、150ccぐらいの大きさのボトルが売ってたら絶対重宝しそう。そうだ、日本の百円ショップでそういう容器を買ってもってきて、こっちで水を入れて持ち歩けばいいんですよね。今度からそうしよう。ちなみに、こちらの水は大丈夫です。硬水なので少し石鹸の泡立ちが悪かったりしますが、水道の蛇口からそのまま飲んでも全く問題なし。シャワーや洗顔などした感触でも、とくにお肌に悪い気はしません。夫の言うには、アリゾナの水のほうがマズイそうで、向こうではペットボトルを買っていたらしいです。

そうそう、駅のトイレはもうドイツが断然きれいです。
トイレのドア横の壁に片手ぐらいの大きさの箱みたいな機械が取り付けてあって、50セントを入れるようになってるんですが、私がこの際たまった小銭を入れてしまおうと財布のなかをかき回していると、中から太ったおばさんが出てきて、笑いながらドイツ語でなんとかかんとか言うんです。全然わからないんだけど、どうも、入れなくていいと言ってるみたい。
ほら、海外のトイレでは掃除のおばさんが座っているところがあって、その人にお金を渡すことになってるでしょ、そうか、あれかなと思って、その人にお金を渡そうとしたら、また首を振られて何か言われてしまいました。
「べつにお金はいらないのよ」
という意味なんだな、と理解しました。
中は清潔。パリなんかと大違い(昔の話なので、今ではマシになったかも)。匂いも洗剤の香りだけ。ペーパーもきらしてないし、白いタイルもピカピカでした。
やはり清潔にこだわるドイツ人。

こっちではこのところ快晴が続いていて、日差しの下では半袖でいられます。いまだにノースリーブとかキャミソール着てる人もいます。夜も、家の中では半袖でいられるし、かといって暑くもなく、さわやかなお天気ですね。でもいったん雨が降ったら、フリースが必要になるくらい冷えるんですけど。
とにかく寒いのは困ると思って、長袖ばかり用意してきたので、こっちで半袖のTシャツを買ったりしてます。今、ちょうどセール期間のようで、どこでも安くなっててお得です。服の値段は日本とそう変わらないですが、んー・・・なんかデザインとかフィット感が違いますね。
ネマキングの私は、もうネグリジェを二着買ってしまいました。花柄の可愛いタイプと、ちょっと墨絵豹柄ふうのシックなもの。どっちも38号ですが、日本でS〜Mサイズの私には大きめです。36号のTシャツでも、かなりダブッとしてます。少し大きい子供用の服がちょうどかもしれませんね。アメリカではSの下にプチサイズがあって、それがわりとぴったりでしたけど。
でも、海外の下着だけは、私には合わないですね。第一大きすぎるし。日本人女性と欧米の女性の体格、もう骨格とか肉付きからぜんぜん違うからだと思いますが。下着なんかはフィットするかどうかが特に大事でしょ、その点、中国では事情が違ってたと思います。同じアジア人体型ってことで、わりと合うんでしょうか。

デューレンの街、ぜんぜん見てませんけど、やっぱり私はユーリッヒのほうが好きかも。
この、徒歩でだいたい把握できる感じがいい。人も親切だし。
街では夫と二人で歩いているより、私一人のほうが、親切にしてもらえることが多い気がします。道端で地図を広げているだけで、通りすがりの青年が「どこに行きたいの?」とニコニコ話しかけてくれたり。人に何か尋ねようと思ってキョロキョロしてたら、向かいから歩いてきた紳士が、さも「なにか困ったことがあるのかな?ん?わたしに尋ねてもかまわないのだよ、さあさあ、遠慮なく訊きたまえ」という顔をしてこちらを見ていたり。
夫は夫で、研究所のみなさんに親切にしてもらっているようですし。
ドイツ人って、真面目で厳格できっちりしてるけど、なんか怖そうっていう印象がありましたが、ここにきてから変わりましたね。

しかし今回のことでわかりましたが、あんな一時間に一本か二本のローカル線でも、けっこう利用してる人いるんですよ。昼間は学生さんが多かったですね。たぶんデューレンに高校あたりがあるんじゃないかな?夕方はお勤め帰りのおじさんや買い物帰りのおばさんなども。
ここで驚いてしまうのは、「なんでそんなに早く来るの?」ってこと。
いや、私は暇人だし、ぶーらぶら歩いて、無人駅のベンチで二十分ぐらいボーッと座ってるのも悪くないと思って、行きも帰りもそうしたんです。そんな酔狂なことするの、私ぐらいかと思ってたら、すぐあとからぱらぱら来るんですよ、乗客が。ほんと時刻表に書かれた時間の十五分前ぐらいから。あの電車、遅れることはあっても、出発が早くなることはないと思うんですよね、バスじゃないんだし。でも、十五分も前から人が無人駅のホームにボーッと待ってる。
自分のことは棚に上げて、あんたたち何なの?って感じですよ。
帰りの五時台の電車も、まだ発車まで二十分もあるのに駅で待ってる。で、五分ぐらい前からはもうベンチから立ってる。
この人ら、ひょっとしてイラチ(関西弁:セカセカ急いでイライラする性質の人)なんか?
ちょっとよくわかりませんでした。車両は二つしかないっていっても、じゅうぶん全員が座れるほどしかお客さんいないのに。
よくわかりませんでした。

パーティ

先日、研究所でわりと大掛かりなパーティがありました。
まあ、お互いの親睦を深めましょうという目的だと思うのですが、子供たちまで連れてきて、ファミリーでのおつきあい。この研究所、その他にもハイキング大会なんかがあったりして、デカイくせに妙にアットホームな雰囲気を目指している感じがします。

パーティは午後六時からでしたが、サマータイムなのでまだ日は高いです。
気候がいいのでガーデンパーティ。生バンドの演奏をバックに喋ったり、食べたり。ちょっとしたステージが用意されていて、そのうえで踊る人たちもいました。
ふたつあるカフェテリアのうちのひとつだということですが、なかなかいいところでした。少なくとも、ローレンス研のカフェテリアよりはずっと良かったように思います。
初めは何か挨拶があって、あとはみんな勝手にワインやビール片手に社交です。子供たちにはジュースと敷地の一角につくられた遊び場。

私たちも、B夫妻を介して、ユーリッヒに住んでいる他の日本人の方々数名に紹介してもらいました。毎日のようにメインストリートまで買い物に出てるけど、アジア人を見かけたことがないと言っていたら、「あら、日本人だけでも20家族はいるのよ」と。
んー、たったそれだけじゃ、いかに狭いこの街でも、ばったり会う確率はかなり低いんじゃない?夫たちは、たいてい研究所関係だから仕事に行ってるんだし、昼間のメインストリートやスーパーで偶然に会うなんてね、ちょっと考えられません。それに、「あの人、日本人かしら」と思っても、「いやいや、チャイニーズかコリアンかも?」なんて思って、お互い声をかけるようなことはしないでしょうし。
私たちのことをチャイニーズだと思ってたと言われて、笑ったりしましたが、私は弥生顔で、海外では確かにチャイニーズとよく間違えられますが、夫が間違えられるとはねぇ。あの人、毛の濃い縄文顔だし、大陸系漢民族っぽくないんですよね。それに、ちびデブな中国人って見たことない。体型的にも違う雰囲気。
一ヶ月の予定も半分過ぎて、もうすぐ帰国するんです、と言うと、「入れ替わりが激しいですよ、短期滞在の方が多いし、日本人会(?)はあるけど、毎月、誰かの歓送迎会をやってるって感じね」と。まあ、そうなんでしょうね、こちらのドイツ人と結婚している人以外は、いつか帰国するんだし。長期にいても、数年という感じだろうし。
根を下ろす、下ろさない、そういう意識の違いはあると思います。
私たちはあくまでビジター。

出された食事はちゃんと暖かく、いろんな種類があって美味しく、給仕をしてくれる人もいて、量が足りなくなることもなく、みんなが食べ終わるころには、なんだかわからないババロアとホイップクリームを足して割ったようなデザートも出ました。優雅でしたね。九時を回ってあたりがすっかり暗く涼しくなり、人の顔もよく見えなくなって、私たちはB夫妻とともに失礼しましたが、まだ人はたくさん残っていて、果てしなく続きそうな気配でした。いったいいつ終わったんでしょう。みんなお祭り好きなのかなぁ。

しかし、どうも私は「学者(研究者)の妻」の役割に心底から馴染んでないっていうか、まだまだこのある意味特殊な世界を好奇心でもって外側から見てるんですね。
B氏が私の隣に座っていて、
「彼(うちの夫)の研究は、とても面白いですね、わたしは彼がここに来たことをとても喜んでます」
とか言われても、ふうん、そーですか、という感じ。いや、前から「ドイツに来ないか」という誘いはあったというし、喜んでるというのが嘘ではないにしろ、まー社交辞令かなとも思ったり。
いや、私が夫の研究のことを知らなさ過ぎるんでしょう。夫の仕事に関する能力的なことは、外部からどう評価されているかというところで客観的に見ていて・・・それしか判断材料がないんですよね、正直。だって、ズブの素人じゃない、ねぇ?夫自身の言うことなんか、そのときの気分でコロコロ変わったりするし、あてにならない。
でも、たとえば研究所で知り合ったとか、院生のころから同じ業界にいたけれど結婚したので研究からは身を引いた奥さんとかいう人もけっこういて、そういう人たちは結婚するとき、「コイツはできる奴だから将来出世まちがいなし、何がなんでもゲットォ〜!」「コイツはあんまりできないけど性格いいし、好きだからいいや(ハァト」みたいに思ってたんでしょうかね。
よくわかりません。

だけど、やっぱりそういう「業界を知ってる奥さん」というのは根性の座り方が違うというか、私なんかの感覚とはぜんぜん違うなぁと思うこともしばしば。外から見てなくて、その中に自分も入り込んでますよね、業界のヒエラルキーの中に。もっと夫と自分の目指すところが一体化してる感じで、まあ、特殊な世界だから、学者や研究者には、ああいう奥さんのほうがいいのかなと思ったりしますよ。いちおう高学歴だから、専業主婦になってもそれなりの誇りがあるみたいだし。
いや、私の想像する普通の日本の奥さんとは、やっぱり感覚がどこかズレてると思いますよ。特にほら、言いたかないけど「理系」だから・・・理系は女も強いわ。っていうか、その理系夫ともども「頭脳マッチョ」なんだな。良い悪いじゃなく、価値観が。
例えば、「海外で病気なんかしたら心細いですよねぇ〜」と訊くとするでしょ、
普通の奥さん→「ええ、そうですねぇ、まあ、こっちの生活が長い日本人の方とかに助けていただきながら、なんとかやっていくしかないですよね〜(笑」
高学歴理系奥→「いや、大丈夫です。私、英語できますからコミュニケーションはとれますし。こっちも医療体制しっかりしてますから、さほど心配ないですね(マジな顔」
こんな感じでしょうか。

うん、いや、大丈夫ならいいんだけどさ・・・
軽い社交として「もしも」の話題で「ね〜」と訊かれてるんだから、そうマジにならず「ね〜」で相槌をうつ柔らかさっていうか、ルーズさがないですよね。会話をBGMのように流せないっていうか。がちがちの理系人間ほど、ちょっと訊かれたことに対してでも、まず第一声は「そうですね」より「いや」という否定形で答えるんだな。これはうちの夫だけじゃなかったんだ。偏見?スポーツ選手や芸能人が、まずは「そうですね」でインタビューに答えるパターンと対照的。
同じことを言うにしても、いったん相手を肯定しておいて、おもむろに「だけどね、〜〜ってこともあるし、・・・ですよね」というような曖昧なぼかし方をするほうが、与える印象はやさしいと思うんだけど。で、マジな話はマジな話として、相手の表情その他から汲み取れるでしょ?そのときは、真面目に対応したらいいわけだし。
私と「否定形から入る人々」の微妙な感覚のズレが、いつもの夫婦喧嘩に発展したり、向こうはちゃんと答えてるのに、こっちの気分としては「ハァ?」な感じを生み出すんだなぁと思いました。
(あー、こんなこと書いてたら怒られるかも。だってほんとなんだもん)


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